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読誦の人へ対して書す。
そうじて人は、実もなく戯れごとには耳を傾け、真実の教化をば聞くに退屈するによって、耳近きことを集め、この物語を板に刻むこと、例えば樹木を愛するに異ならず。その故は植木には益なき枝葉多しといえども、その中に善き実あるをもって、枝葉を無用と思わぬが如くなり。かるが故にスペリョレスの仰せをもってこの物語をラチンより日本の言葉に和らげ、色々の穿鑿の後、板に開かるゝなり。これまことに、日本の言葉稽古のために、便りとなるのみならず、善き道を人に教え語る便りともなるべきものなり。
註:
教化 「人々を教え諭し導く」こと。元々は仏教用語。
ESOPO p408
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