ESOPO NO FAVLAS.

0.07 (獣の舌のこと) 415.23--416.15

 ある時シャント エソポに「我が第一と思わう珍物を買い求めてこい」と下知(げ ぢ)せらるるに、諸人座に連なっているところへ(け だもの)の舌ばかりをととのえて出いた。シャント大きに怪しめてエソポを召して、「汝は何故に舌ばかりをば()う てくるぞ」と言わるれば、エソポ答えて言うは、「第一と思わう珍物を買うて参れと仰せらるるによって、こう仕った、それを何故にと申すに、天下の善悪は舌 三寸の囀るにあるということがござる。しかれば天下、国家の安否(あんぷ)も 舌に任することなれば、何かはこれに勝ろうずるぞ」と申した。「しからばまた第一の悪しいものを買うてこい」と下知をせらるれば、エソポまた舌ばかりを買 うてきたを、シャント「これは何事ぞ」と怪しめらるれば、「舌はこれ禍の(かど)な りと申す諺がござれば、これに過ぎた悪しいものはござるまじい」と答えたと申す。


ESOPO p415  p416


・類話などについて

Ernest Griset p159 舌
 クサントスが大勢の客をディナーに招待すると、イソップに、金に糸目をつけずに、極上の珍味を饗宴に供するようにと命じた。一皿目は、色々に調理され、 適切なソースで味付けされた舌の料理だった。この料理は、饗宴の客たちから賞賛され、機知に富む話題を提供した。
 ところが、二番目の料理も、舌ばかりだった。そして、三番目も、四番目も。 クサントスは、冗談にも程があると思い、怒り心頭して、イソップに言った。
「おい、私はお前に、金に糸目はつけずに最良の物を供せと言わなかったか?」
「舌より優れたものがあるのですか?」 イソップが答えた。「舌は、勉学と哲学の道標ではありませんか。この高貴な器官により、演説や賞賛がなされるので はないですか。そして交易や契約、そして結婚の誓約が行われるのではないですか。舌に匹敵する良いものなどこの世にはありません」
 お客たちは、イソップの知恵を賞賛した。そしてその場の雰囲気も和んでユーモアが返ってきた。
「皆様方」クサントスがお客たちに言った。「どうか、明日も皆様方とディナーを共にする栄誉をお与え下さい。そして、この料理が、皆様方にとって最良のも のならば・・・」クサントスはこう言うと、イソップを振り向いてこう続けた。「よいか、明日は、お前が最悪と思う肉を用意するのだ」
 次の日、饗宴の始まる時間となり、お客たちが集まった。そして出てきた料理は、彼らの度肝をぬいた。そして、クサントスを激怒させた。テーブルには舌以 外何もなかったのだ。
「おい、イソップ先生よ」クサントスが言った。「舌の肉は、最良の時と最悪の時があるのか?」
「舌よりも悪いものがあるのですか?」イソップが答えた。「お天道様の下で、邪悪なことに関して、舌が関与しないことがありますか? 裏切り、暴力、不 正、そして、悪事は、談合により、決定され、それで命令が下るのです。これらは皆舌によるものなのです。帝国や都市の瓦解。そして、友情の破壊。全て舌が 関わっているのです」
 お客たちは、今まで以上に、イソップの才知に打たれ、そこでイソップのために、主人への取りなしをしてやった。

饒舌について プルタルコス 柳沼重剛訳 岩波文庫 no.8. p46
 
レスボス島の民主派の党領で七賢の一人に数えられるピッタコスが、エジプト王から犠牲に捧げる獣を送りつけられ、最上 の肉 と最低の肉を切り取れと命じられた時、舌を切りとって送り返し、これこそ最高の善をなし、かつまた最大の悪をなすものとしたのも間違ってはいない。

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