0.10 (棺の文字のこと) 419.02--420.20
ある時シャント エソポを連れて墓どころへ赴かるるに、そのところに棺のあったに、七つの文字を刻うだ。それと言うは、よ、た、あ、ほ、み、こ、お、これぢゃ、エソポ
シャントに言うは、「殿は学者でござれば、この文字をば何と弁えさせらるるぞ」と、シャントしばらく工夫をせらるれども、更に弁えられいで、「この棺は上古に作ったれば、文字今は弁え難い、汝知らば言え」と言われた、エソポはもとよりその字面をよう心得てシャントに言うは、「我はこの謂れを弁えてござる、この所に過分の財宝がござる。それを顕しまらしたらば、なにたる御恩賞にか預かろうぞ」と、シャントこの旨を聞いて「汝これを顕すにおいては、譜代のところを赦免して、その上に財宝半分を与ようずる」と約束せられた。その時エソポ文字の謂れを読み表いて申すは、「よ
というは、四つということぢゃ、た というは、たんとということ、あ
とは、上がろうずるという儀、ほ というは、掘れということ、み
とは、見よという儀、こ とは、黄金という儀、お
というは、置くという儀ぢゃ」と判ずれば、掘ってみるに、文字の如く、過分の黄金が見えた。シャントこれを見て貪欲が俄かに起こって、エソポ/に約束を違ようとせられたれば、またその奥な石に五つの文字があったをエソポが見て言うは、「所詮この黄金をばシャントも取らせられな、その故はここにまた石に五字書いてござる、それというは、お、こ、み、て、わ
とあった、この心は、お というは、置くという儀、こ
というは、黄金という儀、み とは、見つくるという儀、て というは、帝王という儀、わ
というは、渡し奉れという儀でござる。しからばこの宝は国王に捧ぎょうずるものぢゃ」と言うたところで、シャント大きに驚いて、密かにエソポを近づけ、「このことが他へ聞こえぬようにせい、家に帰ってその分けぶんをば与ようず」とばかり言わるれば、エソポ譜代の赦しの取り沙汰はなかったによって、シャントに向こうて言うは「この金を下さるることは恩に似て恩でない、仔細はそうのうて叶わぬことぢゃ。右のお約束の如く譜代のところを赦させられいでは曲がない、たとい当時は色々に仰せらるるとも、時刻をもって是非に本望を達しょうずる」と申した。
ESOPO p419 p420
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