ESOPO NO FAVLAS.

0.12 (サモの大法会のこと) 425.15--427.20

 ある時またサモという所に大法会の儀があって、高いも賤しいも群 集(くんじゅ)する、その場に所の検役(け んやく)が座せられたに、鷲一つ飛んで来てかの守護の指金(ゆ びがね)をふくんでいづくとも知らず、飛び去ったところで、その座にあり()う た万民これを怪しみ、「これは只事ではない」と言うて、法会の儀式も興さめて、各々このことを僉議(せ んぎ)するのみであった。地下(ぢげ)宿 老(しゅくろう) 若輩の者まで「この儀はシャントより他に知る人があるまじい」と言うて、その旨をあい/尋ぬれば、「このことは浅からぬ不審ぢゃほどに、思案 をして答ようずる」と言うて家に帰り、心を尽くいて案ずれども、更にわきまゆる道が無かったによって、案じ煩うていらるる体をエソポ見てシャントに問う は、「何事を案じさせられて悲しませらるるぞ」と言えば、シャント「我このほど案じ煩う事はこれぢゃ」とあって、かの一遍を語って、「汝 これを弁えたか」と言わるれば、エソポ「しからばこの里の会所で我が郎党(ろうどう)こ の事を弁えたれば、召し出だいてお問いあれと仰せられい、某 申し当てたならば、諸人 御身を崇敬(そ うきょう)いたそうず、もし 申し損ずるとも、わたくし一人(いちにん)の 不覚でこそござろうずれ」と言えば、「この儀 尤ぢゃ」とあってシャント所の人々にその分 申さるれば、各々大きに喜うでエソポを召し出だすに、その座に連なるほどの人「さてもこれほど醜い者は何処から出たぞ」と笑い()う たれば、エソポ少しも臆した気色も無う、諸人の中をおめず憚らず、踏み越え踏み越えさし通って高座に直り、「ただいま各々わたくしを欺かせらるる事はその 謂れがない、破れた衣装を着た君子もあり、藁屋の内に貴人(きにん)の 座せらるることもあるもの」と言えば、各々「道理/ぢゃ」と言うて、物言う者もなかった。その時エソポ「ただいま某 鷲の仔細を申そうとすれども、人の下人として主君の前で自由にもの申すことも憚りなれば、この座に我が(しゅ う)シャントのござることなれば、ほしいままに申されぬ、ただいま我が譜代のところを赦免あらば、その因 縁(いんえん)を談じょうずる」と言うた。されどもシャント少しも同心 無うて、「かつてあるまじい事ぢゃ」と鉢を払われたれども、所の守護 あながちに赦免を乞わるるによって、力に及ばいで万民の前で「今 日(こんにち)よりはエソポに(い とま)を取らするぞ」と言われた。その時エソポ「ただいまの音声はすみやかに諸人の耳に落ち難い」と言うて、別 人(べつにん)をもってシャントの言葉の如くに高 声(こうしょう)に叫ばせ、さてその(の ち) 三戸(さんこ)を 鎮めさせて鷲の仔細を述べた。「かの鷲 守護の指金を奪い取ることは、余の儀ではない、鷲は諸鳥の王ぢゃ、他の国の帝王からこの里を押 領(おうりょう)せられ、その勅命の(し た)になろうずるという儀ぢゃ」と言うて去った。

0.13a (リヂャの勅使のこと) 427.20--429.02

それよりやがてリヂャの国 のクレッソと申す帝王より勅使を立てられ、「その里から年毎に過分の(みつき)も のを捧げ奉れ、この勅定を背かば、ことごとくを攻め取らりょうずる」と/の儀であった。これによって所の人々「この勅定を背くまじい」と口を揃えて、同音に議定事(ぎ ぢょうこと)終わってあった。されども年長けた人々は「まづエソポに談合(だ んこう)してお返事を申そうずる」とあって、「如何に」と問えば、エソポ答えて言うは「一切人間のナツウラの教えには、自由をようことも、または人に使わ りょうことも、その身の分別(ふんべつ)にあるこ となれば、ただいま某 何れを取らせられいとは申すに及ばぬ、ともかくも総並(そうなみ)に 任させられい」と申した。そこで所の人々エソポに知恵を付けられ、各々その分別を為いて、「貢物(み つきもの)を捧ぎょうことはその謂れがない」と言うて、勅定を背くによって、勅使帰ってこの由を奏し、「ただ 義兵をもって攻めさせらりょうことも難かろうず、その仔細は、かの所にエソポという学者が一人(い ちにん)居住つかまつる、これを召されぬほどならば、たやすう攻め伏せらりょうことは難うござろうず」と申せ ば、重ねて勅使を立てさせられ、「その所に居住するエソポを参らせい、然らば貢物を赦させらりょうず、エソポを参らせぬならば、大軍をもって攻めさせら りょうず」と仰せられた。その時その里の人々は まづその難を逃りょうとて、「エソポを奉ろうずる」/との談合なかばであったところに、まづその身に「いか が」と問えば、譬えを述べて言うは、

0.13b (オオカメとヒツジのこと) 429.02--429.15

「昔 鳥(けだもの)の 物を言うた時、オウカメ ヒツジを食らわうとすれば、ヒツジはその難を逃りょうとてイヌを雇うて警護させた。その時オウカメが心に思うようは、『武略をもって誑かそうにはしくまじ い』と、ヒツジに向こうて言うは、『面々のそばに置かれたイヌどもを渡し与えらるるならば、今より以後 汝らに害を為すことはあるまじいぞ』と、ヒツジはこれを(まこと)か と心得て すなわちイヌを渡しやれば、その時オウカメ、もとより巧んだことなれば、まづイヌどもを生害して、その(の ち)ヒツジを食らい果たいた」

と言い終わって、彼の勅使と連れてリヂャの国へ赴いた。


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類話などについて

Type203A* 羊は羊番を追いやる。 そして狼の餌食となる。

タウンゼント 64.オオカミたちとヒツジたち
 ある時、オオカミたちが、ヒツジたちにこんなことを言った。
「君たちと我々の間に、恐怖と殺戮が蔓延しているのは何故か?……それは皆、イヌどものせい
なのだ。なぜなら、我々が、君たちに近づこうものなら、イヌどもは、我々に襲いかかって来る。
我々が君たちに何かしたとでも言うのか?」
 オオカミたちは、更に続けた。
「もし、君たちが、奴らを追い払ってくれるなら、我々と君たちの間には、和解と平和の協定が、
すぐにでも、結ばれるだろう」
 ヒツジたちは、条理をわきまえぬ者たちばかりだったので、オオカミに簡単に欺かれ、イヌた
ちを追い払ってしまった。そして、守りのなくなったヒツジたちは、オオカミたちに、殺戮の限
りを尽くされた。
Perry153 Chambry217 Caxton3.13 伊曽保1.10 La Fontaine3.13

TMI. K2061.1.1 狼は羊に護衛の犬をなくすようにと申し出る。 計略は見透かされ る。

バブリオス 93. オオカミとヒツジ (イソップ風寓話集 バブリオス 西村賀子訳 国文社)
 昔、オオカミ族の使者たちがヒツジの群れまでやって来ました。誓約を取り交わしてゆるぎない平和をうちたてるためです。ただし、イヌ たちを捕らえて乱暴を加えるという条件つきでした。オオカミとヒツジが互いに恨みを抱いていがみあっているのはイヌのせいだというわけです。
 脳味噌が足らず、なにがあってもめえめえ鳴くしか能のないヒツジのことです。もう少しでイヌを引き渡すところでした。けれども、もう老齢に達した牡ヒツ ジが毛を激しく逆立てて口を開きました。
 「この駆け引きはなんて妙ちきりんなんじゃ。見張ってくれる者がいなかったら、わしはお前さんがたといっしょに暮らしていけるものじゃろか。イヌたちが わしを守ってくれているとはいえ、今でも安穏に草を食むことができないのは、オオカミのせいなのじゃぞ」
Chambry218

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