0.14a (エソポリヂャへ行くこと) 429.16--430.01
エソポ ほどのうリヂャの国にまかり着き、クレッソのお前に伺候いたせば、国王エソポを叡覧あって、さてもかかる見苦しいやつが所為をもってサモの者ども我が命を背いたかと大きに怒らせられたれば、その時エソポ叡慮を察して謹んで「如何に帝王の中の帝王にてござる御身、少しのお暇を下されば、奏聞申そうずることがござる」と申せば、すなわちお赦しを下された。その時エソポが述ぶる
と/ころの譬えには、
0.14b
430.01--431.10
「ある貧者イナゴを捕らうずると行く路次においてセミを見つけ、すなわちこれを捕って殺そうとするところで、かのセミの申すようは、『さりとては
我を殺させらりょうこと本意無い儀ぢゃ、
それを何故にと申すに、五穀草木に障りとはならず、さしては人にも仇を
為すことはござない、結句梢に上って囀りをもって夏の暑さを慰めまらするところに、理不尽に殺させらるることは何事ぞ』と事を分けて申せば、その者道理に
責められてたちまち赦免致いた。しからば古の
セミと、ただいまの某は少しも隔てがござない、わたくしはそうじて人に仇を仕らず、ただ道理の推すところを人に教ゆるばかりでござる、道理を守る時は、天
下も太平に、国土も安う穏やかに、民の竈も賑わうことは常の法でござる。わたくしはこの道を教ゆるより他、別の犯しもござない、お赦しなされば、国
里をあまねく徘徊いたそうずる」と奏すれば、国王この奏聞を感じさせられて、「汝に咎がない、天道も
これを赦させらるれば、我もまた赦免するぞ、その他所望あらば、申し上げい」と仰せらるれば、「某 別の願いもござない、ただ一つ /の
望みがござる、それと申すは、我が久しゅう居住仕ったサモにおいて人の被官となって色々の辛労を仕るところに、その里の人々暇を乞い受けて自由を得させられたれば、いかでかこれを報謝仕る志しが無うてはござろうぞ? 仰ぎ願わくは かの所へ仰せ掛けられた貢物を赦させられば、比類も無い御恩でござろうずる」と奏すれば、帝王その優しい志しを感じさせられ
て、ご赦免なさるると仰せられたれば、
0.14c (エソポ 財宝をもってサモへ帰ること) 431.10--432.06
それから一巻の
書を作って帝へこれを奉ったれば、叡感なのめならいで過分の財宝にサモのお赦しの綸旨を
添えて下されたれば、エソポこれを頂いて夥し
い船を飾りたて、これに乗ってサモへ渡海す
れば、サモの万民この由を聞き、上下万民喜び身に余り、足の踏みども覚えいで馳走奔走をして結構に船を飾り、舞楽を奏し、糸竹を調べ、宗徒の
老若迎いに出て、かのエソポをもてないた。さてこの船ども港に着けば、宮殿楼
閣を飾りおいた高い台に上って言うは、「そもそもこの所の人々我が身を自由に為させられたその御恩賞のかたじけなさをいつの世に忘りょうぞ? その御恩を
報じょう為に、/この度リヂャの国王の勅札をここに持って参った」と言うて、綸旨を開いて高らかに読めば、その所の守護をは
じめとして、老若男女喜びの眉を開き、安堵した有様は、まことに譬えをとるにためしもないほどにあったと申
す。
ESOPO p429
p430 p431 p432
・類話などについて
Ernest Griset p160 イナゴとキリギリス
イナゴを捕まえていた少年が、偶然キリギリスを見つけた。彼女は殺されそうになった時、こんな風に命乞いをした。
「ああ、なんてことでしょう! あたしは誰も傷つけたりしていない。それに、あたしは誰かを傷つけようなどと考えたこともなければ、そのような力もありま
せん。あたしのすることと言えば、歌う事だけです。あなたは、あたしを殺して何か得があるのですか?」
この言葉で、少年の心は穏やかになり、無実のキリギリスを逃がしてやった。
トルストイ寓話 1.25 おんなの子とトンボ やまむら ゆき訳 新読書社
おんなの子が、トンボをつかまえて、足をむしりとろうとしました。
おとうさんは言いました。
「夕やけになったら、いつも、このトンボたちは、はねでうたをうたっているんだよ」
おんなの子は、トンボのはねの合しょうをおもいだし、にがしてあげました。
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