0.15 (エソポ諸国をめぐること) 432.07--432.21
その後エ
ソポ諸国へ渡り、道を説き教ゆれば、バビロニャという大国のリケロと申す帝王このエソポを寵愛あってかたじけなくも御身近う召しおかせられた。そのころ諸国の帝王より互いに不審を勅札を送り、その不審を開かねば、あるほどの宝を奉らるる形儀がござった。しかればバビロニャへ諸国から掛くる不審をばエソポが知略をもってたやすう開いてやり、バ
ビロニャから掛けらるる不審をば他国から開くことが稀にあったと聞こえた。さあればバビロニャはもとより大国といい、知略といい、国の勢いも他に異にあっ
て、国も福有に、民も豊かに、帝王の誉れも四海に仰がれさせらるば、エソポもまた官、位に進
むることもなのめならなんだ。
0.16 (エソポ養い子を定めること) 432.22--433.21
されどもエソポはまだ子孫を持たなんだによって、エンノという官人の子を養い子と定めて、やがてこの由を申し上げ、その身の惣/領と披露した。ある時エ
ンノ罪を犯すことがあったところで、もしこの事をエソポが知らば、さだめて奏聞申そうず、その時は悔ゆるとも甲斐があるまじいと思うて、謀を為いて謀書を造り、「エソポこの頃野心を企て他国へ移り、この国を傾きょうと仕る」と国王へ奏した。されども帝王この由を聞かせられて実
否を未だ決しさせられなんだれば、かねてエンノ巧みおいたこ
とぢゃによって、「ここに証跡があ
る」と申して、一つの巻物を捧げた。帝王これをご覧ぜられて、今は疑うところも無いと仰せられ、エルミッポという臣下に仰せつけられて罪科に行えとの儀であった。エルミッポすなわちエソポを召し縛めて心
中に思わるるは、「さても世上に名を得たこの学者を殺そ
うことは本意ない、所詮身に罪を被るとい
うとも、命を継がうずる」と思い定め、密かにある片脇な棺に入れておき、「既に誅罰つかまった」と奏聞せられてあった。さてかのエソポが跡式をば論ずる者
も無う、かの養子がこれを身代いたい
た。
0.17 (ネクテナボ王の不審のこと) 433.21--434.24
さてエソポは死去した由が隣国は申すに及ばず、遠い国までも隠れがなかったところで、エヂプトの国のネクテナボと申す帝王エソポが逝去し/た
ということを聞かせられ、さあるにおいては、不審を掛けらりょうずるとあって、不審の条々を書き送られた。その趣きは、「今我天にも、地にもつかぬ宮
殿楼閣を一つ建立しょうとの望みぢゃ、願わくはその国から
作者一人を遣わされ、不審のようをも
開かせたらば、なんの幸いかこれにしこうぞ? このことが成就いたさば、これより毎年宝の車を贈らうず、さないものならば、その方より毎年宝を賜われ」と
書かれた。そうあるところでリケロこの不審を聞かせられて国中の
学者、宿老どもを召し寄せられ、このことを如何にと問わせらるれども、一人と
して明らめ申す者がなかったによって、帝王 御心を
悩まさせられ、嘆いて仰せらるるは、「国を亡ぼし、家を破ることは人を失えばとある言葉、今 身の上に知られた、なんたる天魔波旬が我が心に入り換わってかのエソポを害したか? 賢王は優れたる臣下の滅ぶることをば、手足をもがるる如くに
惜しがるとあるもこれらのことであろうず、エソポさえもあるならば、この不審をたやすう開き、我が誉れをも輝かし、国の知略をも上ぎょうずるに、悔ゆるに甲斐ない越度をした」と御涙を流させらるれば、
0.18 (エルミッポ エソポのことを奏聞すること)
434.24--435.24
エルミッポこの由/を見奉り、「如何に君、かのエソポを成敗いたせと宣旨
を下された時、あまり本意なさに、ある棺に入れおいてござれば、まだ存命つかまつることもあろうずる」と奏すれば、帝王大きに感じ喜ばせられて、エルミッ
ポに取り付かせられ、「汝 我に王業を再興した、ひとえにこの国の世を治め、民を撫ずることは汝が分別にのこった」と仰せられて、喜びのお涙を流させられ、「急ぎエソポを召し寄せい」と仰せらるるに
よって、エソポ再び死せいで蘇生仕り、参内いたすは不思議ぢゃ。もとより数月棺
の内に篭りいたことなれば、姿も衰え衣冠もやつれて、いとどその様は見苦しゅうなったところで、国王この姿をご覧なされて衣冠を改め、まかり出よと仰せら
るるによって、いかにも束帯ちぎってまかりづれば、すなわち彼のエヂプトよりの勅札を見せさせられた。エソポこれを披見してしばらく案じて申したは、「これは更に難しい不審でもござない、冬過ぎてその造営の為に、作者をも遣わし、または不審の条々をも開いてもって参
ろうずると仰せ返されい」と奏すれば、すなわちその返事をさせられたと申す。
ESOPO p432
p433 p434 p435
・類話などについて
この話は、古代オリエントの、「賢者アヒカルの言葉」からとられている。
筑摩世界文学大系1 古代オリエント集 杉勇・訳 参照のこと。
旧約聖書 創世記 37-41 (要約)
ヨセフは、「太陽と月と十一の星が自分にひれ伏す」という夢を見る。それは、父親の太陽と、母親の月と、十一人の兄弟が
ヨセフにひれ伏すということを意味する。この夢のために、ヨセフは兄たちに妬まれ、穴の中に投げ込まれる。兄たちが目を離した隙に、ヨセフはイシュマエル
人に、奴隷としてエジプトに連れて行かれてしまう。兄たちは、ヨセフの服に、雄山羊の血を浸し、父親に見せる。
ヨセフは、エジプトで、ファラオの侍従長のポティファルの奴隷となり、その家の一切の財産を管理する。しかし、その主人の妻が、ヨセフに色目を使い、ヨ
セフはそれを拒んだために、女はヨセフが自分に乱暴をしようとした。と讒言して、ヨセフは牢獄に入れられてしまう。その後、王の給仕役の長と料理役の長が
この同じ牢屋に入れられる。そして、二人は同じ夜にそれぞれ夢を見る。
給仕役の長の夢は、「一本のブドウの木に三本の蔓があり、それが芽をだし、花を咲かせ、ブドウが熟し、ファラオの杯を手にしていた彼は、そのブドウを
取って、その杯に搾り、それをファラオに捧げる」というものであった。ヨセフはこの夢を次のように解く。「三本の蔓は三日で、三日たてば、ファラオがあな
たの頭を上げて、元の職務に復帰させてくれる。」そしてヨセフは、自分の夢判断がうまくいったならば、自分のことをファラオにとりなしてくれるようにと頼
む。
料理役の長の夢は、「編んだ篭が三個彼の頭の上にあり、一番上の篭には、料理役がファラオのために調えた料理が入っているが、鳥が彼の頭の上の篭からそ
れを食べている」というものであった。ヨセフはこの夢を次のように解く。「三個の篭は三日で、三日たてば、ファラオがあなたの頭を上げて切り離し、あなた
を木にかけ、そして、鳥があなたの肉をついばむ。」
三日後、ヨセフの夢判断の通りに事が起きる。しかし、給仕役の長はヨセフのことを忘れてしまう。
二年後、ファラオは夢を見る。「ナイル川のほとりに立っていると、よく肥えた七頭の雌牛が葦辺で草を食べる。すると、その後から、今
度は醜い、やせ細った七頭の雌牛が、岸辺にいる雌牛のそばに立ち、そして醜い雌牛はが、よく肥えた雌牛を食い尽くす。」という夢を見て覚めた。ファラオが
また眠ると、再び夢を見る。「よく実った七つの穂が、一本の茎から出て来る。すると、その後から、実の入っていない、東風で干からびた七つの穂が生えてき
て、実の入った七つの穂を飲み込んでしまう。」
ファラオはひどく心が騒ぎ、エジプト中の魔術師と賢者を全て呼び集めさせ、自分の見た夢を話したが、それを解き明かすことができる者はいなかった。
その時、例の給仕役の長が、「わたしは、自分の過ちを思い出しました。」と言って、ヨセフのことを失念していたことを申し出る。そこで、ファラオはヨセ
フを呼びにやる。ヨセフは直ちに牢屋から連れ出され、散髪をし着物を着替えてから、ファラオの前に出て、次のようにファラオの夢を解く。「七頭のよく育っ
た雌牛と七つのよく実った穂は七年の豊作のことです。そして、七頭のやせた醜い雌牛と東風で干からびた七つの穂は、七年の飢饉のことです。このような次第
ですから、今すぐ、聡明で知恵のある人物を見つけ、エジプトの国を治めさせ、豊作の七年間、エジプトの産物の五分の一を徴収し、その後に起こる七年の飢饉
に対する国の備蓄とするように」と助言する。
ファラオは、ヨセフの言葉に感心して、「わたしは、お前をエジプト全国の上に立てる」と言い、印象のついた指輪を自分の指からはずしてヨセフの指には
め、「わたしはファラオである。お前の許しなしには、このエジプト全国で、だれも、手足を上げてはならない。」と宣言する。
今昔物語 4.4 句拏羅太子、眼を抉り法力に依りて眼を得る語
天竺に阿育王という大王がいて、句拏羅と
いう容姿美しく正直で何事にも優れている太子がいた。この太子は前の后の子で、今の后は継母であった。
この后が太子を見て愛欲の心を起こした。この后の名を帝尸羅叉と
いう。后は太子の居間にそっと忍び寄り、太子に抱きついて思いを遂げようとした。太子は驚いて逃げ去った。すると后はひどく憎み、大王に、「あの太子は私
に思いを寄せています。太子を罰してください」と訴えた。大王はこれはきっと后の讒言に違いないと思った。そこで密かに太子を呼び、「后と同じ王宮にいる
とよくないことが起こるかもしれないので、一国を与えるからそこへ住み、わしの宣旨に従うようにせよ。ただし、わしの歯印がない宣旨には従ってはならぬ」
といって、徳叉尸羅国という遠
い国にやってしまった。
すると継母は策を構えて、大王を酔わせて、密かに歯印を盗み取って、偽りの宣旨を下した。「太子の両眼を抉り出して捨て、国外に追放せよ」。これを持た
せて使者を出した。
グリム童話 KHM 97 命の水
病気の父王のために、末弟の王子は、命の水を手に入れる。しかし寝ている間に、兄たちに、命の水と塩水を取り換えられてしまう。
年老いた王様は、一番下の息子が自分の命を狙ったのだと思い怒りました。そして、王様は皆を宮廷に呼び寄せ、息子へ刑を諮りました。
それは、密かに撃ち殺すというものでした。ある日のこと、王子が何の疑いもなくが狩に出かけると、王様付きの狩人が一緒に行くようにと命ぜられました。二
人が森の奥へ入り誰もいなくなると、狩人はとても悲しそうな様子をしていたので、王子が言いました。
「狩人よ、なにをそんなに落ち込んでいるんだね?」
すると狩人が言いました。
「それはお話することはできません。しかし、私はしなければならないのです」
そこで王子が言いました。
「さあ、構わぬから、正直に話すのだ」
「ああ、なんという事でしょう」狩人が言いました。「私はあなたを撃ち殺すようにと、王様に命じられたのです」
すると王子は驚いてこう言いました。
「狩人よ、どうか私を生かしておいてくれ。この王族の衣装をお前にやるから、その代わりに、お前の粗末な服を私にくれ」
すると狩人は言いました。
「喜んでそう致しましょう。どの道、私にはあなたを撃ち殺すことなど出来ません」
こうして二人は、洋服を交換すると、狩人は家へと帰り、王子は更に森の奥へと入って行きました。
しばらく後、これを王子様へ渡してくれるようにと、黄金と宝石を積んだ三台の荷馬車が、王様の所へ届けられました。これらの贈り物は、王子の剣で敵を殺
してもらい、王子のパンで、国民の飢えを救ってもらった、三人の王様からのお礼のしるしでした。これを見て、年老いた王様は、「息子は無実だったのではな
かったのか?」と思い、皆にこう言いました。
「ああ、息子がまだ生きていれば。息子を殺させてしまうとは、なんと悲しいことか!」
「王子さまはまだ生きておられます」狩人が言いました。「私は、王様の命令をなすことが、どうしてもできなかったのです」
狩人はこう言って、その時の経緯について王様に語りました。それを聞いて、王様の胸から石がとれたようになり、「再び親愛の情を持って、息子を迎える」
ということをあらゆる国々に触れさせました。
その他
昔話インデックス 183 継子の王位
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ヘロドトス「歴史」1.107-1.122
グリム童話 KHM31 手なしむすめ
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枕草子とイソップ伝 (蟻通明神・姥捨て伝説)
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