ESOPO NO FAVLAS.

ネクテナポ帝王エソポに御不審の条々。439.04--443.07

0.23 [まだ見聞かぬ物についての不審のこと] 440.20--441.14

　また一同に各々掛くる不審には、「天地、はじまってからこの方、まだ見聞かぬ物は何ぞ？」　エソポが申すは、「某 只今家に帰らうず、その暇(いとま)を下されい」 と申し、家に帰り、エソポ一紙(いっし)を調えて 帝王へ奉／った、そのことわりはリケロ帝王から借らせられた三十万貫の借状であった、帝王これを御覧ぜられて大きに驚かせらるる体で、諸臣 下に「汝らはこの儀を見聞いたことがあるか」と問わせらるれば、各々「かつてもって見聞かぬことでござる」と、申せば。その時エソポ「しからば只今の御不 審はそれをもって開けてござる」と申して、エソポは暇を乞うて罷り帰れば、その身にもあまたの宝を下され、バビロニャへも宝の車を贈り下された。エソポこ れを受け取ってバビロニャへ帰り着いて、エヂプトからの宝の車を奉り、かの国でのことどもを詳しゅう奏聞すれば、なのめならず喜ばせられた。

0.24 [エソポがデルポスへと行くこと] 441.14--442.05

その後(のち)エソポ バビロニャの帝王に暇を申し、諸国修行と志いて、まづグレシャの国に行(ゆ)い て諸人に道を教え、同じくその国の内なデルポスという島へ渡り、教化(きょうけ)す るといえども、この島の人悪逆無道(あくぎゃくぶとう)に して、理非善悪も聞き入れなんだれば、かの島を出(づ)る に臨うで、島中の悪人ども僉議(せんぎ)して言う は、「エソポは聞こゆる学匠ぢゃに、ここを去って我らが悪名を言わば、この島の瑕瑾(かきん)で あろうず、ただ殺せ」と言うて、エソポが荷物の中に／黄金を入れて置き、路次(ろ し)で追っかけ荷物の中からこの黄金を探し出し、盗人と言い掛けてすなわち牢者(ろ うしゃ)させ、ついにはエソポを山上(さんじょう)に 連れて行けば、最期と心得て譬えを述べて言うたは、

0.25 [エソポがネズミとカイルの譬えをして、死んだこと] 442.05--443.07

「諸々(もろもろ)の虫どもが 無事に参会をした時、別してネヅミと、カイル いかにも親しゅう言い合わせた。ある時ネヅミの許にカイルを招いて種々(しゅ じゅ)の珍物をそろえてもてないたところで、その後またカイルもネズミをもてなそうずるとて招き寄せ、川のほ とりに出て言うは、『我が私宅はこのほとりぢゃ、さだめて案内をしらせられまじい』とて、ネズミの足に縄を付けてカイル 水の中に飛び入ったれば、ネズミも引き入れられ、命の終わりと思うて言うたは、『さてもカイルは情けも無う我をたばかり、命を絶つものかな! 我こそ水屑となり果つるとも、後に残る一族どもいかでか汝を安穏(あんおん)に 置こうぞ』と、互いに浮いつ、沈うづするところに、トビという猛悪人(もうあくじん)『こ れこそ究竟(くきょう)の所望なれ』と言うて、宙 に掴うで飛び上がり、二つともに裂き食らわれた。その如く我が只今の有様は かのネズミに少しも劣らぬ、我 面々に珍物の如くな道を教ゆれども、その返報には命を失わるる、我こ／そ虚しゅう果つるとも、バビロニャと、エヂプトの人々 我を深う愛せらるれば、この儀はただは果たされまいぞ」と言い終われば、高い所から突き落といて殺いて退けた。その後(の ち)エ ソポが申したに違(ちが)わず、この事がグレシャ に隠れが無かったによって、その国から人数(にんじゅ)を率(そっ)し デルポスへ渡って、その事を糺し、皆討ち果たいて退けられたと申す。

ESOPO  p440  p441  p442  p443

類話などについて

0.23 (まだ見聞かぬ物についての不審のこと)

Type 921E　かつて一度も聞いたことがない質問。

　エソポのハブラスのこの話では、単に、「今までに見たことも聞いたこともない物を示せ」というような問題のように見える。しかし本 来、この問いには、もう少し深い意図がある。
　出題者は、相手が仮に、今までに見たことも聞いたこともない物を示した場合でも、「それは既に知っている」と答えれば、決して相手に負けることはない。 エソポはこのことを知った上で、偽の証文を示したのである。この場合、この偽の証文に、「知っている」と答えれば、三十万貫払わなければならなくなる。

Type 852 　お姫様に、「それは嘘です」と言わせる。(お姫様に対する、不名誉な嘘をでっち上げ、お姫様に「それは嘘です」と言わせる。)　[K1271.1.2]

日本昔話通観インデックス798　嘘話の賭け
　彦八が、話好きな鴻池の旦那に、「旦那は私が話すと、それは嘘だ、と言うので話さない。」と言うと、旦那は、もし嘘だと 言ったら千両やる、と約束する。
　彦八が、「鳶が殿様の駕籠や羽織に糞を落とすたびに家来が新品と取り替え、しまいに首に落とすと首もすげ換えた。」と話すと、旦那は、それは嘘だ、と言 い、千両取られる。

ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら　阿部謹也訳　岩波文庫
第23話.オイレンシュピーゲルが自分の馬に金の蹄鉄を打たせ、デンマーク王が代金を支払わねばならなかったこと。
　彼がデンマーク王のもとへやってきたときにも王は彼が大変気に入り、なにかとてつもないことをやってみせてくれれば彼の馬にこの上なく上等な蹄鉄を打っ てやろうといったのです。オイレンシュピーゲルが王にその言葉を真に受けてよいのかどうかお尋ねしますと、王は勿論だとも、自分はいったとおりにするつも りだと答えました。
　そこでオイレンシュピーゲルは金細工のところまで馬に乗っていって、黄金の蹄鉄を銀の釘で打たせて戻ると王に蹄鉄の代金を払ってくださいと申し上げたの です。王はよろしいといって書記に蹄鉄の代金を払うように命じました。書記は普通の蹄鉄だと思っていたところ、オイレンシュピーゲルに金細工師のところへ 連れて行かれ、金細工師に１００デンマーク・マルクを請求されたのです。書記はそんな大金は払えないといって王のところへいって申し上げました。王はオイ レンシュピーゲルをよんでいいました。「オイレンシュピーゲル、お前はなんという高い蹄鉄を作らせたのじゃ」といって笑って１００デンマーク・マルク支 払ったのです。

0.24 (エソポがデルポスへと行くこと)

旧約聖書 創世記　44　(要約)　創世記 37-41　参照
エジプトの司政者となっていたヨセフの元に、それとは知らぬ11人の兄弟たちがやって来るが、ヨセフは自分と母親の同じ弟 のベニヤミンと水入らずで会いたいと思い、ベンヤミンの袋に、銀の杯を入れさせ、役人に追いかけさせ、ベンヤミンを捕らえて連れてこらせる。

グリム童話集　金田鬼一 訳　60　ハンスばか　(あらすじ)　岩波文庫
　お姫さまは、父親知らずの子供を産む。王様は、『お姫さまの子供にレモンを持たせ、教会堂で、子供がそれを渡した者を父 親とする。』と決める。教会堂へは立派な人以外は入れてはならぬとの命令があったが、どういうわけか、ちびで、がに股で、せむしの「ハンスばか」が、会堂 に入り込む。子供は、「ハンスばか」にレモンの実を渡す。
　王さまは腹を立て、お姫さまと子供を、ハンスばかと一緒に樽に入れて、海に流す。お姫さまがハンスに不平を言うと、ハンスは、自分が祈ったから、子供が 生まれたのだし、自分が祈ったことは全て実現すると言いい、食べ物のジャガイモを出し、立派な船を出し、上陸して、お城を出す。そして、最後に、若い知恵 のあるハンサムな王子になるように祈り、その通りになる。
　王さまが、道に迷い、この城へとたどり着く。お姫さまは、王様にご馳走をし、帰りに、王さまのかくしの中へ、知らぬ間に黄金の盃を入れる。王さまが帰っ てから、追っ手を送り、王さまが黄金の盃を盗んだとして、連れ戻す。王さまが、どうして盃があるのか、分からないと言うと、お姫さまは、「人をつかまえ て、罪に落とすようなことはしてはいけない」と言って、自分の正体を明かす。

黄金のロバ　9.8-9.9 アプレイウス　呉茂一・国原吉之助　訳　岩波文庫　
　ここでは、本当に金杯を盗んだ一行が、追いかけられて、荷物の中から金杯が発見され、牢獄に入れられ る。

0.25 (エソポがネズミとカイルの譬えをして、死んだこと) 442.05--443.07