万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 前を罷立。いそ本其夜猫をちやうちやく春。所能人是をあや
02 志む。其故八彼国尓八天道越志ら春゛。猫をおもてと敬ひ遣る
03 故尓。是をぞうぶん尓多川春。帝此由聞召天いそ本を召
04 出され。汝何尓依天猫を打やと宣へ八゛。いそ本答云。今夜この
05 猫我国能鶏を喰ころし候程に。扨こそい満しめて候へと申遣
06 連八゛。い可天゛其事有べき。当国と。其国と八遥に程遠き所
07 奈れ八゛。一夜可゛うち尓ゆ可ん事い可にと宣へ八゛。いそ本申介る八。け
08 連しや能国の駒い奈鳴ける時。当国能ぞうやく者らむこと有。
09 其ごとく当国能猫。我国能鶏を喰候と申遣れ八゛。実もと宣介り
10 第四 いそ本。帝王にこ多ふる物可゛多り能事
11 さる程尓。祢多奈越国王。いそ本を可多らひ。よ奈/\昔今農
12 物語共志給ふ。或夜いそ本夜ふけ天。やゝも春れ八゛眠可ち也。
【伊曽保中 〇八九】
13 きく王い奈り語連/\とせめ給へ八゛。いそ本謹而承。えいふん尓[と]
14 奈へ天云。近比或人千五百疋の羊を飼。或道に川有。其底深
15 して歩丹天渡事可奈八須゛。常に大船を以天是を渡る。有
16 時俄尓帰ける尓。舟をもとむるによし奈し。い可ん共せん可多なくし
17 て。古ゝ可しこ尋行遣れ八゛。小舟一艘汀尓有。又ふ多り共乗へき
18 舟に毛あら春。羊一疋我と共に乗天渡る。残り能羊多
19 遣れ八゛。其隙いく者゛く能徒いへぞと云天又眠る。其時国王げ
20 き里ん有天。いそ本をいさめ天の多まふ。汝可゛春いめんろう
21 ぜき也。語者多せ登里ん遣゛ん有八゛。いそ本おそれ/\申ける八。千
22 五百疋能羊を小舟尓て。一疋徒゛ゝ渡せ八゛。其時刻幾可あらん。
23 其間眠候と申遣れ八゛。国王大きに叡覧有天。汝可゛才覚量
24 難。御[さ]んあ連とて暇をこふ。於可しく毛。又可んせい毛深り介利
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 前を罷立。いそほ其夜猫をちやうちやくす。所の人是をあや
02 しむ。其故は彼国には天道をしらず。猫をおもてと敬ひける
03 故に。是をぞうぶんにたつす。帝此由聞召ていそほを召
04 出され。汝何に依て猫を打やと宣へば。いそほ答云。今夜この
05 猫我国の鶏を喰ころし候程に。扨こそいましめて候へと申け
06 れば。いかで其事有べき。当国と。其国とは遥に程遠き所
07 なれば。一夜がうちにゆかん事いかにと宣へば。いそほ申けるは。け
08 れしやの国の駒いな鳴ける時。当国のぞうやくはらむこと有。
09 其ごとく当国の猫。我国の鶏を喰候と申ければ。実もと宣けり
10 第四 いそほ。帝王にこたふる物がたりの事
11 さる程に。ねたなを国王。いそほをかたらひ。よな/\昔今の
12 物語共し給ふ。或夜いそほ夜ふけて。やゝもすれば眠かち也。
【伊曽保中 〇八九】
13 きくわいなり語れ/\とせめ給へば。いそほ謹而承。えいふんに[と]
14 なへて云。近比或人千五百疋の羊を飼。或道に川有。其底深
15 して歩にて渡事かなはず。常に大船を以て是を渡る。有
16 時俄に帰けるに。舟をもとむるによしなし。いかん共せんかたなくし
17 て。こゝかしこ尋行ければ。小舟一艘汀に有。又ふたり共乗へき
18 舟にもあらす。羊一疋我と共に乗て渡る。残りの羊多
19 ければ。其隙いくばくのついへぞと云て又眠る。其時国王げ
20 きりん有て。いそほをいさめてのたまふ。汝がすいめんろう
21 ぜき也。語はたせとりんげん有ば。いそほおそれ/\申けるは。千
22 五百疋の羊を小舟にて。一疋づゝ渡せば。其時刻幾かあらん。
23 其間眠候と申ければ。国王大きに叡覧有て。汝が才覚量
24 難。御[さ]んあれとて暇をこふ。おかしくも。又かんせいも深りけり
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