万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 長春゛。み可登゛いそ本尓仰介る八。臣下。殿上に罷出ん時。是徒い
02 へを語候へ可しと有遣れ八゛。畏天承る。折節官人伺公能砌申
03 出し給ふやう八。我国尓。そん人を。奈を須く春し有。其養生と
04 云八。器物尓どろを入天。其病人を。つけ。ひ多須。こと日久し。ある
05 病者漸十尓九川奈をりける時。外尓出んと春れ共これを制
06 して門外を出春゛。其内を奈ぐさ三行ける折節。或侍馬上に
07 鷹越春へ十人尓犬をひ可せ天とをりける越。[主人]者し里出。
08 馬能三川つきにとり付さゝへ天申けるやう八。此乗給ふ物八何物
09 ぞ。侍答云是八馬登云天人能あゆ三を助くる物也。手に春へ
10 給ふ八何物ぞと問。是八鷹といひ天鳥越とる物也。跡にひ可
11 せ給ふ八何物ぞ。是八犬とて此鷹能鳥越とる時。[下り]春る
12 物也と云。住人案じて云。其徒いへいく者゛くぞや。侍答云毎年
【伊曽保中 〇十一 ニ】
13 百貫あて奈りと云。其徳い可程有ぞ登問。侍答云。五貫三貫
14 能間登云。住人笑天云。御辺此所を者やく過させ給へ。此内能
15 醫者八狂人を治春る人奈り。もし此醫者き可るゝ奈ら八゛。御辺
16 を取天どろ能中へをし入らるべし。其故八百貫能損をして
17 五三貫能徳ある事を好人八。只狂人尓こと奈ら春゛と云。侍介゛に
18 もとやおもひ介んそれよ里して。鵜鷹能みちをやめ侍り遣る
19 とぞ申遣類。此物可゛多りをきゝ遣る人々。遣゛にもとや於毛者
20 連遣ん。鵜鷹能遣゛いをやめられ遣ると奈り
21 第七 いそ本。人尓せうぜらるゝ事
22 えし徒能都尓。屋んごと奈き学匠有遣利。可本可多ち見ぐ
23 累しきこといそ本尓満さ利天見にくゝ侍連ど。をの連可゛身農
24 上八知春゛。いそ本可゛姿能あや志きを三て笑奈んと須。或時態
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 長ず。みかどいそほに仰けるは。臣下。殿上に罷出ん時。是つい
02 へを語候へかしと有ければ。畏て承る。折節官人伺公の砌申
03 出し給ふやうは。我国に。そん人を。なをすくすし有。其養生と
04 云は。器物にどろを入て。其病人を。つけ。ひたす。こと日久し。ある
05 病者漸十に九つなをりける時。外に出んとすれ共これを制
06 して門外を出ず。其内をなぐさみ行ける折節。或侍馬上に
07 鷹をすへ十人に犬をひかせてとをりけるを。[主人]はしり出。
08 馬のみつつきにとり付さゝへて申けるやうは。此乗給ふ物は何物
09 ぞ。侍答云是は馬と云て人のあゆみを助くる物也。手にすへ
10 給ふは何物ぞと問。是は鷹といひて鳥をとる物也。跡にひか
11 せ給ふは何物ぞ。是は犬とて此鷹の鳥をとる時。[下り]する
12 物也と云。住人案じて云。其ついへいくばくぞや。侍答云毎年
【伊曽保中 〇十一 ニ】
13 百貫あてなりと云。其徳いか程有ぞと問。侍答云。五貫三貫
14 の間と云。住人笑て云。御辺此所をはやく過させ給へ。此内の
15 醫者は狂人を治する人なり。もし此醫者きかるゝならば。御辺
16 を取てどろの中へをし入らるべし。其故は百貫の損をして
17 五三貫の徳ある事を好人は。只狂人にことならずと云。侍げに
18 もとやおもひけんそれよりして。鵜鷹のみちをやめ侍りける
19 とぞ申ける。此物がたりをきゝける人々。げにもとやおもは
20 れけん。鵜鷹のげいをやめられけるとなり
21 第七 いそほ。人にせうぜらるゝ事
22 えしつ{と}の都に。やんごとなき学匠有けり。かほかたち見ぐ
23 るしきこといそほにまさりて見にくゝ侍れど。をのれが身の
24 上は知ず。いそほが姿のあやしきをみて笑なんとす。或時態
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