万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 金銀連うら越以天。座敷を可ざり。玉を見可゛き多る可゛ごとく
02 丹して。山海能珍物を調。いそ本を奈ん志やうじける。いそ本此
03 座敷能い三しき有様を三て云。可程に春ぐ連天見事成
04 座敷。世にあらじと本めて。何と可思ひ遣ん。彼主能そ者゛へつ川
05 とよ利天。顔尓徒者゛きを者き可け遣るに。主い可川天云。是八
06 い可那る事ぞとと可゛め遣れ八゛。いそ本答云。我此程心ち悪事
07 有。然尓徒者゛きを者可んと。古ゝ可しこを見れ共びゞ志く可ざら
08 連遣るざしき奈れ八゛。い川゛くに於ゐ天も御辺能可本尓。満さ
09 里天き多奈き所奈け連八゛。徒者゛きを者き侍るといへ八゛。主
10 答云。彼いそ本尓増利て才智里せい能人あらじと。笑語介る
11 第八 いそ本。ふう婦能。中奈をし能事
12 えし徒との内。加さ登云。在所尓。乃とゝいへる人有。是八と三栄へ
【伊曽保中 〇十三】
13 て侍連共。其妻能方八。まづしく志天。多よ里奈き父母を
14 持天侍利き。彼妻本よ利。者ら悪くて常に。男能気耳
15 さ可へり。其時於川とに可くれ親能可多へ帰利ぬ。男奈げき志多ふ
16 こと限奈し。人をや利よべ共還而いらへもせ須゛。男余能可奈しさに。
17 いそ本をせうじてあり能まゝを語。い可にとしてもよび可へさんと云
18 遣れ八゛。いそ本。是い登や春きこと也。遣ふ能うち尓よび返べ幾
19 者可利こと越教奉らんと云。其計尓先音信物尓。色々乃鳥
20 遣多゛ものを荷せ天。妻能有しもとに行天云やう。我頼多る
21 人遣ふ。女房をむ可へら連遣る可゛。さ多う奈し。若此家尓有可と
22 問八。妻是を聞天春八やと驚さ八ぎて。我を捨て。よ農
23 妻を呼事。無念也とて。其まゝ男能可多へ者し里行て。何御
24 辺八。異奈る妻を呼とや。ゆめ/\其義可奈八じ奈どゝ。い可里け
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 金銀れうらを以て。座敷をかざり。玉をみがきたるがごとく
02 にして。山海の珍物を調。いそほをなんしやうじける。いそほ此
03 座敷のいみしき有様をみて云。か程にすぐれて見事成
04 座敷。世にあらじとほめて。何とか思ひけん。彼主のそばへつつ
05 とよりて。顔につばきをはきかけけるに。主いかつて云。是は
06 いかなる事ぞととがめければ。いそほ答云。我此程心ち悪事
07 有。然につばきをはかんと。こゝかしこを見れ共びゞしくかざら
08 れけるざしきなれば。いづくにおゐても御辺のかほに。まさ
09 りてきたなき所なければ。つばきをはき侍るといへば。主
10 答云。彼いそほに増りて才智りせいの人あらじと。笑語ける
11 第八 いそほ。ふう婦の。中なをしの事
12 えしつとの内。かさと云。在所に。のとゝいへる人有。是はとみ栄へ
【伊曽保中 〇十三】
13 て侍れ共。其妻の方は。まづしくして。たよりなき父母を
14 持て侍りき。彼妻本より。はら悪くて常に。男の気に
15 さかへり。其時おつとにかくれ親のかたへ帰りぬ。男なげきしたふ
16 こと限なし。人をやりよべ共還而いらへもせず。男余のかなしさに。
17 いそほをせうじてありのまゝを語。いかにとしてもよびかへさんと云
18 ければ。いそほ。是いとやすきこと也。けふのうちによび返べき
19 はかりことを教奉らんと云。其計に先音信物に。色々の鳥
20 けだものを荷せて。妻の有しもとに行て云やう。我頼たる
21 人けふ。女房をむかへられけるが。さたうなし。若此家に有かと
22 問は。妻是を聞てすはやと驚さはぎて。我を捨て。よの
23 妻を呼事。無念也とて。其まゝ男のかたへはしり行て。何御
24 辺は。異なる妻を呼とや。ゆめ/\其義かなはじなどゝ。いかりけ
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