万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 連八。男笑天云。遣ふ汝帰らるべしとおもひ侍連八゛。其よろこび
02 能多め尓。可くめづらしき物買もとむると云。此者可りこと八。いそ
03 本能才覚奈りとぞ慶び遣る。それよ利いそ本八。えし徒との
04 み可登゛能御いと満を給天。本国へ帰りける時。御やくそくの保う
05 ろくを毛。取天至れる。是尓依天み可ど大きに御可ん有。其外
06 えし徒と丹天。成介る処能理ど毛。古満/″\と語遣れ八゛。誠耳
07 此いそ本八。多ゞ人と毛覚ぬもの可奈と。人々申あへり遣里
08 第九 いそ本。臨終尓おひ天。鼡蛙能譬を引て終こと
09 さる程尓いそ本。里くう類春能帝王丹毛。御いと満を給て。諸
10 国修行とそ心ざしける。爰尓介連しや能国に至り。諸人耳
11 能道を教介れ八゛。人々多川と三あへり。又其国能可多八ら尓。てる
12 保春と云島に渡天。我道を教介るに。其所能心悪き尓極。
【伊曽保中 〇十四】
13 一向是をもちひ春゛。いそ本力及八゛須゛帰らんと須る時尓。人々評
14 定して云。此者を外国へ返須奈ら八゛。此島能有様をそし里
15 奈ん。可れ可゛荷物尓黄金を入。道丹天追可け盗賊と号し。失
16 者゛やとぞ申ける。評定して。其日丹毛奈りし可八゛。道尓て追
17 可け黄金をさ可゛し。盗賊人と号して。既尓籠者せしむ。漸
18 命毛あやうく見衣し可八゛。終近付ぬとや思遣ん。末期尓いひ置
19 事有遣利。され八゛い丹しへ鳥遣多゛ものゝ類。まじ八りを奈し介る
20 時。鼡。蛙を志やうじて。い川き可しづきもて奈須こと限奈し。其
21 後又蛙。鼡を志やう多゛い須。来る時尓。臨天゛。蛙迎尓出。蛙鼡
22 尓向天云やう。我本八此辺也。定天案内志らせ給ふまじと
23 覚衣候程尓。御迎尓出侍ると申遣れ八゛。鼡畏天慶。其時蛙
24 本そき縄を取出して。導奉らんとて鼡能足尓結付多利。
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 れは。男笑て云。けふ汝帰らるべしとおもひ侍れば。其よろこび
02 のために。かくめづらしき物買もとむると云。此はかりことは。いそ
03 ほの才覚なりとぞ慶びける。それよりいそほは。えしつとの
04 みかどの御いとまを給て。本国へ帰りける時。御やくそくのほう
05 ろくをも。取て至れる。是に依てみかど大きに御かん有。其外
06 えしつとにて。成ける処の理ども。こま/″\と語ければ。誠に
07 此いそほは。たゞ人とも覚ぬものかなと。人々申あへりけり
08 第九 いそほ。臨終におひて。鼡蛙の譬を引て終こと
09 さる程にいそほ。りくうるすの帝王にも。御いとまを給て。諸
10 国修行とそ心ざしける。爰にけれしやの国に至り。諸人に
11 能道を教ければ。人々たつとみあへり。又其国のかたはらに。てる
12 ほすと云島に渡て。我道を教けるに。其所の心悪きに極。
【伊曽保中 〇十四】
13 一向是をもちひず。いそほ力及ばず帰らんとする時に。人々評
14 定して云。此者を外国へ返すならば。此島の有様をそしり
15 なん。かれが荷物に黄金を入。道にて追かけ盗賊と号し。失
16 ばやとぞ申ける。評定して。其日にもなりしかば。道にて追
17 かけ黄金をさがし。盗賊人と号して。既に籠者せしむ。漸
18 命もあやうく見えしかば。終近付ぬとや思けん。末期にいひ置
19 事有けり。さればいにしへ鳥けだものゝ類。まじはりをなしける
20 時。鼡。蛙をしやうじて。いつきかしづきもてなすこと限なし。其
21 後又蛙。鼡をしやうだいす。来る時に。臨で。蛙迎に出。蛙鼡
22 に向て云やう。我本は此辺也。定て案内しらせ給ふまじと
23 覚え候程に。御迎に出侍ると申ければ。鼡畏て慶。其時蛙
24 ほそき縄を取出して。導奉らんとて鼡の足に結付たり。
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