万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 集居天。我主人を定者゛やときてうし侍利き。尤志可るべし
02 とて各天にあふぎ我主人をあ多へ給へとて祈誓春。天道是
03 を憐天゛。柱を一川給八り遣利。其柱能川尓落入音。底尓ひゞき
04 て於び多ゝし。此こゑ尓おそれ天蛙共。水中尓志川゛三可くる。志づ
05 ま川天後。をでい能中よ利眼を見上。何事も奈きぞ罷出よ。
06 とて。各奈ぎさにとびあ可゛りぬ。扨此柱をい年うして。我主人とぞ
07 もて奈し遣類。無心能柱奈れ八゛終尓あざ介川天。各此上尓飛
08 あ可゛り又天道尓あふぎ遣る八。主人八心奈き木也同八。心あらん物
09 を多べ可しと訴遣れ八゛尓くい。志や川者゛ら可゛物この三可奈とて此度
10 盤。とびを主人とあ多へ給ふ。主人尓依天蛙彼柱能上尓上る時八
11 とび。是を以天餌食と須。其時蛙千度後悔春れ共可ひ奈し。
12 其ことく人八多ゞ。我身尓あ多八ぬ事を祢可゛ふ事奈可れ。始よ利
【伊曽保中 〇廿五】
13 人尓順ものゝ。今更独身と奈らんもよし奈き事也。又自由尓
14 有遣る人能主人を頼もひ可゛こと也。只夫々尓当ことを可^勤事専也
15 第廿六 とびと者登との事
16 或時鳩と。とびと奈らび居遣る処尓。とひ此鳩をあ奈どつ天
17 屋ゝも春れ八゛餌食とせんと須其鳩せんぎ評定して。鷲能
18 本尓行天申遣る八。とびと云下せんのぶとう仁有。やゝも春
19 連八゛。我等にこ目見せ顔也。今よ利以後其ふるまひを奈さ怒
20 様尓。者可らひ給八ゞ。主君とあふぎ奉らんと云遣れ八゛。鷲安
21 請可゛川天鳩を一度尓。召寄可多者し尓祢ぢ殺春。其残る鳩
22 申ける八。是人能志わざ尓。あら春。我と我身をあやま川也。鷲
23 能者可らひ給ふ処道理至極也と。奈んいひ介る。其ごとく未
24 我身尓始よ利奈き事をあ多らしく仕出須八。還天其悔有
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 集居て。我主人を定ばやときてうし侍りき。尤しかるべし
02 とて各天にあふぎ我主人をあたへ給へとて祈誓す。天道是
03 を憐で。柱を一つ給はりけり。其柱の川に落入音。底にひゞき
04 ておびたゝし。此こゑにおそれて蛙共。水中にしづみかくる。しづ
05 まつて後。をでいの中より眼を見上。何事もなきぞ罷出よ。
06 とて。各なぎさにとびあがりぬ。扨此柱をいねうして。我主人とぞ
07 もてなしける。無心の柱なれば終にあざけつて。各此上に飛
08 あがり又天道にあふぎけるは。主人は心なき木也同は。心あらん物
09 をたべかしと訴ければにくい。しやつばらが物このみかなとて此度
10 は。とびを主人とあたへ給ふ。主人に依て蛙彼柱の上に上る時は
11 とび。是を以て餌食とす。其時蛙千度後悔すれ共かひなし。
12 其ことく人はたゞ。我身にあたはぬ事をねがふ事なかれ。始より
【伊曽保中 〇廿五】
13 人に順ものゝ。今更独身とならんもよしなき事也。又自由に
14 有ける人の主人を頼もひがこと也。只夫々に当ことを可^勤事専也
15 第廿六 とびとはととの事
16 或時鳩と。とびとならび居ける処に。とひ此鳩をあなどつて
17 やゝもすれば餌食とせんとす其鳩せんぎ評定して。鷲の
18 本に行て申けるは。とびと云下せんのぶとう仁有。やゝもす
19 れば。我等にこ目見せ顔也。今より以後其ふるまひをなさぬ
20 様に。はからひ給はゞ。主君とあふぎ奉らんと云ければ。鷲安
21 請がつて鳩を一度に。召寄かたはしにねぢ殺す。其残る鳩
22 申けるは。是人のしわざに。あらす。我と我身をあやまつ也。鷲
23 のはからひ給ふ処道理至極也と。なんいひける。其ごとく未
24 我身に始よりなき事をあたらしく仕出すは。還て其悔有
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