万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 物也。事能後千度悔よ利八。事の先に一度も案ぜん尓八志可じ
02 とぞ見衣遣る。聊能歎きを忍び可年天。還天大難を請る
03 物多し故尓葉尓云少難凌。去八゛還て大報をみ多゛る共み衣多利
04 第廿七 加ら春登く志゛やくとの事
05 或時烏。く志゛やくを見天。彼つ者゛さに様々能あや有ことをうら
06 や三。と有処能木陰尓く志゛やく能羽の落遣るを拾取天。
07 我尾羽に指そへ天。く志゛やく能振舞を奈し。王可゛傍輩をあ
08 奈ど里遣利。く志゛やく此由を見天。汝八いや志き烏能身と
09 成。奈んぞ我等可゛振舞を奈し遣るぞとて。於もふまゝ尓いまし
10 め天まじ八利を奈さ須゛。其時烏傍輩尓云やう。我よしなき
11 振舞を奈して恥辱をうくるの三奈ら須゛。散々尓いましめられ
12 ぬ。御辺多ち八若人奈れ八゛向後其振舞を奈し給ふ奈と申ける。
【伊曽保中 〇廿六】
13 其ごとく身いや志うして。可三徒可多能ふるまひを奈しあるひ
14 盤まじ八りを奈せば。終尓をの連可゛本能春可゛多をあら八須尓依
15 て。恥辱をうく類こと定まれ累義奈利。悪人として一旦善人
16 能振舞を作共終に。我本性越あら八須物也是を思へ
17 第廿八 者いとあ里との事
18 或時者い。蟻尓む可ひ天。本こ利遣る八。い可に蟻殿謹で承れ。
19 我程果報い三しき物八世尓有まじ其故八。天道に奉利。
20 或八国王尓そ奈八る物も先我さ起尓奈め。試。志可の{み}奈ら須゛。
21 百官希いしやうのい多ゞきを毛恐春゛恣尓とびあ可゛り候。王との原
22 可゛有様。天晴徒多奈き有様とぞ笑侍利き。蟻答云。尤御
23 辺八さやう尓こそめ天゛多くわ多らせ給へ。但世に沙汰し候盤。
24 御辺程人尓嫌八るゝ物奈し。さら八゛蚊ぞ。蜂ぞ。奈どのやう耳
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 物也。事の後千度悔よりは。事の先に一度も案ぜんにはしかじ
02 とぞ見えける。聊の歎きを忍びかねて。還て大難を請る
03 物多し故に葉に云少難凌。去ば還て大報をみだる共みえたり
04 第廿七 からすとくじやくとの事
05 或時烏。くじやくを見て。彼つばさに様々のあや有ことをうら
06 やみ。と有処の木陰にくじやくの羽の落けるを拾取て。
07 我尾羽に指そへて。くじやくの振舞をなし。わが傍輩をあ
08 などりけり。くじやく此由を見て。汝はいやしき烏の身と
09 成。なんぞ我等が振舞をなしけるぞとて。おもふまゝにいまし
10 めてまじはりをなさず。其時烏傍輩に云やう。我よしなき
11 振舞をなして恥辱をうくるのみならず。散々にいましめられ
12 ぬ。御辺たちは若人なれば向後其振舞をなし給ふなと申ける。
【伊曽保中 〇廿六】
13 其ごとく身いやしうして。かみつかたのふるまひをなしあるひ
14 はまじはりをなせば。終にをのれが本のすがたをあらはすに依
15 て。恥辱をうくること定まれる義なり。悪人として一旦善人
16 の振舞を作共終に。我本性をあらはす物也是を思へ
17 第廿八 はいとありとの事
18 或時はい。蟻にむかひて。ほこりけるは。いかに蟻殿謹で承れ。
19 我程果報いみしき物は世に有まじ其故は。天道に奉り。
20 或は国王にそなはる物も先我さきになめ。試。しかの{み}ならず。
21 百官けいしやうのいたゞきをも恐ず恣にとびあがり候。わとの原
22 が有様。天晴つたなき有様とぞ笑侍りき。蟻答云。尤御
23 辺はさやうにこそめでたくわたらせ給へ。但世に沙汰し候は。
24 御辺程人に嫌はるゝ物なし。さらば蚊ぞ。蜂ぞ。などのやうに
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