万治版 伊曽保物語 変体仮名
図9
【伊曽保中 〇廿八】
01 志ゝ王得多利と是を見んと云。さら八゛とて馬片足をも多遣゛
02 遣れ八゛。志ゝ王何心奈くあをのけ尓奈川天爪のうらを三る
03 処を。本よ利多くみしこと奈れ八゛。志多ゝ可に志ゝ王能徒らを
04 徒ゞ遣さ満尓踏多゛利遣る。さしも多けき志ゝ王も。気を失
05 て起毛あ可゛ら春゛。其隙尓馬八者類可に可け去ぬ。其後志ゝ
06 王者う/\と於きあ可゛利みぶるひして。独ごと越申遣る。よし
07 奈き某可゛計尓て。春で尓命を失八んと須。道理の上よ利
08 も川天いましめ越蒙る事。是馬能わざにあら春゛。只天道の
09 御いましめとぞ覚衣遣る。其ごとく一切能人間毛志らぬ事
10 を。志利可゛本尓ふるま八ゞ。忽恥辱越う遣んこと疑奈し。知事
11 を知共。知ざる事を八゛不^知とせよ。ゆる可゛せ尓於もふ事奈可れ
12 第丗一 志ゝ王と者須とる能事
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
図9
【伊曽保中 〇廿八】
01 しゝ王得たりと是を見んと云。さらばとて馬片足をもたげ
02 ければ。しゝ王何心なくあをのけになつて爪のうらをみる
03 処を。本よりたくみしことなれば。したゝかにしゝ王のつらを
04 つゞけさまに踏だりける。さしもたけきしゝ王も。気を失
05 て起もあがらず。其隙に馬ははるかにかけ去ぬ。其後しゝ
06 王はう/\とおきあがりみぶるひして。独ごとを申ける。よし
07 なき某が計にて。すでに命を失はんとす。道理の上より
08 もつていましめを蒙る事。是馬のわざにあらず。只天道の
09 御いましめとぞ覚えける。其ごとく一切の人間もしらぬ事
10 を。しりがほにふるまはゞ。忽恥辱をうけんこと疑なし。知事
11 を知共。知ざる事をば不^知とせよ。ゆるがせにおもふ事なかれ
12 第丗一 しゝ王とはすとるの事
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