万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 或時志ゝ王其足尓くゐぜを立。其難義尓及ける時。可奈し三
02 能余。者須と利能辺尓近付。者須と類是をおそれ天。我
03 ひ徒じをあ多へ天遣利。志ゝ王羊をを可さ須゛。我足を者須と
04 里能前尓も多く。者須とる是を心得天其くゐぜをぬい
05 て。薬を付天あ多へぬ。それよ利志ゝ王山中尓可くれぬ。ある
06 時志ゝ王。狩尓とら八れて籠尓入ら連。罪人を入天是を
07 喰志む。又彼者須と利其罪有によ利天。彼志ゝ籠尓押入る。
08 志ゝ王あへ天是をを可さ須゛。還天涙を流天畏里ぬ。暫有
09 て人々籠能内を見るに。さしも尓多けき志ゝ王耳を多れ
10 ひさ越を川天。彼者須とる越介いご春。ものゝ具゛を入天犯さん
11 と春るに。志ゝ王是を可奈ぐ利春川。主此事を聞て。汝何の
12 故尓可。可く獣尓愛まれ介るぞ登云遣れ八゛。件の子細申露
【伊曽保中 〇廿九】
13 人々此由を感じて。可ゝ類畜生に至迄。人能恩を報じ遣類
14 ぞやと。感憐ける。是尓依天志ゝ王毛者須とるを毛免
15 連ぬ。其ことく人として恩を知らぬ八。畜生尓毛劣者也人尓
16 恩を作時八。天道是を受給ふ也聊の恩を毛請八゛報^之と常尓思へ
17 第丗ニ むま登ろ者゛能事
18 或時能馬。能可いぐおい天其主を乗天通利遣る。傍尓
19 ろ者゛一疋行あひ多利。彼馬い可川天云。ろ者゛何とて礼拝せぬぞ
20 汝をふ三ころさんもいと易事奈れ共。汝等可゛ことき能者八随へ
21 て{も}事能数奈らぬとて。そこ越過ぬ。其後何こと可志多利介ん。
22 彼馬ニ徒の足をふ三於川天。何能用尓毛立ぬべき様毛奈し。
23 是尓依天土民能手に王多利侍利き。いや志き志川゛の屋尓使
24 遣る習。ふんど越お保せ天ひき行怒。其馬能さ満もやせ衰
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 或時しゝ王其足にくゐぜを立。其難義に及ける時。かなしみ
02 の余。はすとりの辺に近付。はすとる是をおそれて。我
03 ひつじをあたへてけり。しゝ王羊ををかさず。我足をはすと
04 りの前にもたく。はすとる是を心得て其くゐぜをぬい
05 て。薬を付てあたへぬ。それよりしゝ王山中にかくれぬ。ある
06 時しゝ王。狩にとらはれて籠に入られ。罪人を入て是を
07 喰しむ。又彼はすとり其罪有によりて。彼しゝ籠に押入る。
08 しゝ王あへて是ををかさず。還て涙を流て畏りぬ。暫有
09 て人々籠の内を見るに。さしもにたけきしゝ王耳をたれ
10 ひさををつて。彼はすとるをけいごす。ものゝ具゛を入て犯さん
11 とするに。しゝ王是をかなぐりすつ。主此事を聞て。汝何の
12 故にか。かく獣に愛まれけるぞと云ければ。件の子細申露
【伊曽保中 〇廿九】
13 人々此由を感じて。かゝる畜生に至迄。人の恩を報じける
14 ぞやと。感憐ける。是に依てしゝ王もはすとるをも免
15 れぬ。其ことく人として恩を知らぬは。畜生にも劣者也人に
16 恩を作時は。天道是を受給ふ也聊の恩をも請ば報^之と常に思へ
17 第丗ニ むまとろばの事
18 或時能馬。能かいぐおいて其主を乗て通りける。傍に
19 ろば一疋行あひたり。彼馬いかつて云。ろば何とて礼拝せぬぞ
20 汝をふみころさんもいと易事なれ共。汝等がこときの者は随へ
21 て{も}事の数ならぬとて。そこを過ぬ。其後何ことかしたりけん。
22 彼馬ニつの足をふみおつて。何の用にも立ぬべき様もなし。
23 是に依て土民の手にわたり侍りき。いやしきしづの屋に使
24 ける習。ふんどをおほせてひき行ぬ。其馬のさまもやせ衰
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