万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 へ。有可奈き可能姿尓成侍利ぬ。有時此馬。ふんど越せ於ふ天
02 通遣る尓。件能ろ者゛行あひ遣利。彼ろ者゛徒く/\と此馬を
03 見天。扨も/\御辺八。い川ぞや我等越のゝ志利給ふ。く八う遣゛ん
04 能馬尓天わ多らせ給八須゛や。何として可八可ゝ類あさましき姿
05 と奈利天。可程いや志きふんど越八゛。をひ給ふそ。我いや志く住
06 奈れ候へ共[。]未可ゝ類ふんど越八゛お八須゛。い川ぞや能よき可いぐ共盤。
07 い川くに置給ふぞと。者ぢ志め遣れ八゛。返事も奈くて尓げ去。
08 其ごとく人世に有天。高位尓有登云共。下臈能者を軽こと
09 奈可れ。有為無常能習。遣ふい人能上。あ春八我身能上と知るべし。
10 一多んの栄花に本こ川天。人を[あ]やしむ事奈可れ
11 第丗三 鳥遣多゛ものと多ゝ可ひ能事
12 或時。鳥遣多゛ものと。春で尓戦尓及ぶ。鳥能云。軍尓まけ天
【伊曽保中 〇三十】
13 今八可うよと見衣し時。可うも利畜類尓こしらへ可ゆる。鳥共愁
14 云。可れら可゛ごとき能ものさへ。獣尓く多゛利ぬ。今八せん可多奈しと悲
15 む処尓。鷲申遣る八。何事を可奈げくぞ。我此陣尓あらん程
16 盤。多のもしく思へといさめ天。又遣多゛ものゝ陣尓をしよせ。此度盤
17 鳥能軍よ可んめ連。多可゛ひ尓く王保゛く志てん遣゛利。其後鳥共申
18 遣類八。扨も可うも里八。二心有遣る事。い可奈る罪科を可。与へんと
19 云。中尓こらう能鳥あへ天申遣る八。あれ程能物をいましめても
20 よし奈し。所詮遣ふよ利して。鳥のまじ八りを成べ可ら須゛。白日耳
21 者いく王い春る事奈可れと。いましめら連天。鳥の徒者゛さ越。者
22 ぎとられ。今八志ぶ可三能破連越きて。やう/\日くれ尓さしいで
23 遣利。其ごとく人毛志多しき中を捨て。むやくのもの登く三春類
24 こと奈可れ。六親不[案]奈れ八゛。天道丹毛者川゛連多利と見衣多利
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 へ。有かなきかの姿に成侍りぬ。有時此馬。ふんどをせおふて
02 通けるに。件のろば行あひけり。彼ろばつく/\と此馬を
03 見て。扨も/\御辺は。いつぞや我等をのゝしり給ふ。くはうげん
04 の馬にてわたらせ給はずや。何としてかはかゝるあさましき姿
05 となりて。か程いやしきふんどをば。をひ給ふそ。我いやしく住
06 なれ候へ共[。]未かゝるふんどをばおはず。いつぞやのよきかいぐ共は。
07 いつくに置給ふぞと。はぢしめければ。返事もなくてにげ去。
08 其ごとく人世に有て。高位に有と云共。下臈の者を軽こと
09 なかれ。有為無常の習。けふい人の上。あすは我身の上と知るべし。
10 一たんの栄花にほこつて。人を[あ]やしむ事なかれ
11 第丗三 鳥けだものとたゝかひの事
12 或時。鳥けだものと。すでに戦に及ぶ。鳥の[云]。軍にまけて
【伊曽保中 〇三十】
13 今はかうよと見えし時。かうもり畜類にこしらへかゆる。鳥共愁
14 云。かれらがごときのものさへ。獣にくだりぬ。今はせんかたなしと悲
15 む処に。鷲申けるは。何事をかなげくぞ。我此陣にあらん程
16 は。たのもしく思へといさめて。又けだものゝ陣にをしよせ。此度は
17 鳥の軍よかんめれ。たがひにくわぼくしてんげり。其後鳥共申
18 けるは。扨もかうもりは。二心有ける事。いかなる罪科をか。与へんと
19 云。中にこらうの鳥あへて申けるは。あれ程の物をいましめても
20 よしなし。所詮けふよりして。鳥のまじはりを成べからず。白日に
21 はいくわいする事なかれと。いましめられて。鳥のつばさを。は
22 ぎとられ。今はしぶかみの破れをきて。やう/\日くれにさしいで
23 けり。其ごとく人もしたしき中を捨て。むやくのものとくみする
24 ことなかれ。六親不[案]なれば。天道にもはづれたりとみえたり
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