万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 第丗四 可能志ゝ能事
02 或時可の志ゝ。川乃辺尓出天水をの三遣る時。汝可゛角能影水
03 尓う川里て見衣遣れ八゛。此角の有様を三て。扨も我い多ゞき介る
04 角八。万能遣多゛ものゝ奈可に。又奈らぶもの八有べ可ら春゛登。可川盤
05 可うまん能思ひを奈せ利。又我四足能影。水底尓うつ里ていと便
06 奈く細して。志可毛ひづめ二川尓王れ多利。又鹿心に思ふやう。角八
07 めで多う侍連ど。我四川足八うとましげ奈利と思ひぬる処尓。心
08 よ利人能こ恵保の可尓聞衣遣る。其外犬のこ恵毛志遣利。是尓依
09 て。彼鹿山中尓尓げ入。余尓あ八てさ八ぐ程に。或木能ま多尓。己可゛
10 徒の越引可け天。下へぶら里登さ可゛利介利。ぬ可ん/\と春れ共
11 よし奈し。鹿心に於もふ様。よし奈き只今の我心や。い三じく本こ利
12 遣類角八。我あ多尓成天うとん春゛る。四川え多゛こそ。我助奈る物
【伊曽保中 〇丗一】
13 をと。独ごとしておもひ多へぬ。其ごとく人も。是尓可八ら須゛。師伝
14 遣るもの盤。あ多と成天。うとんじ志利ぞけぬるもの八。王可゛多
15 春けを成ものを登。こうく王い春る事。これあるもの奈利とぞ
16 第丗五 鶏ときつ年との事
17 有時きつ年。餌食をもとめ可年天。古ゝ可しこ越さ満よふ処耳。
18 鶏尓行あひ多利。え多利や可し古しと。是を取天くら八んと須。
19 鶏此事を覚天。或木能枝尓とびあ可゛利ぬ。狐手越うし奈ふて
20 せん可多奈さに。所詮[を]多ぶら可してこそ喰め登思ひ天。彼木の
21 本尓立寄天。い可に鶏聞召せ。此比萬能鳥遣多゛ものゝ。中奈を里
22 春る事有。御辺八知給八ぬ可。久敷申承八らぬ尓依天。態是
23 迄参里て候登。いとむつまじ遣尓語介れ八゛。鶏狐のぶ里や具を
24 さと川天。誠可ゝ類折節尓生れあひぬる事こそ。めで多う候へ能
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 第丗四 かのしゝの事
02 或時かのしゝ。川の辺に出て水をのみける時。汝が角の影水
03 にうつりて見えければ。此角の有様をみて。扨も我いたゞきける
04 角は。万のけだものゝなかに。又ならぶものは有べからずと。かつは
05 かうまんの思ひをなせり。又我四足の影。水底にうつりていと便
06 なく細して。しかもひづめ二つにわれたり。又鹿心に思ふやう。角は
07 めでたう侍れど。我四つ足はうとましげなりと思ひぬる処に。心
08 より人のこゑほのかに聞えける。其外犬のこゑもしけり。是に依
09 て。彼鹿山中ににげ入。余にあはてさはぐ程に。或木のまたに。己が
10 つのを引かけて。下へぶらりとさがりけり。ぬかん/\とすれ共
11 よしなし。鹿心におもふ様。よしなき只今の我心や。いみじくほこり
12 ける角は。我あたに成てうとんずる。四つえだこそ。我助なる物
【伊曽保中 〇丗一】
13 をと。独ごとしておもひたへぬ。其ごとく人も。是にかはらず。師伝
14 けるものは。あたと成て。うとんじしりぞけぬるものは。わがた
15 すけを成ものをと。こうくわいする事。これあるものなりとぞ
16 第丗五 鶏ときつねとの事
17 有時きつね。餌食をもとめかねて。こゝかしこをさまよふ処に。
18 鶏に行あひたり。えたりやかしこしと。是を取てくらはんとす。
19 鶏此事を覚て。或木の枝にとびあがりぬ。狐手をうしなふて
20 せんかたなさに。所詮[を]たぶらかしてこそ喰めと思ひて。彼木の
21 本に立寄て。いかに鶏聞召せ。此比萬の鳥けだものゝ。中なをり
22 する事有。御辺は知給はぬか。久敷申承はらぬに依て。態是
23 迄参りて候と。いとむつまじけに語ければ。鶏狐のぶりやくを
24 さとつて。誠かゝる折節に生れあひぬる事こそ。めでたう候へ能
|