万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 あひ多利。[犬能様に者可らひ給ふべし]といひ天。更尓おり春゛。
02 狐重天申遣る八。先此所へ於りさせ給へ。ひそ可に申べき事有
03 と。志き利尓よべ共終尓於利春。鶏用有さう尓あ奈多能可多
04 を奈可゛め遣れ八゛。狐下よ利みあげ天。御辺八何事を見給ふぞ
05 と申遣れ八゛。され八゛只今御辺能物語志給ふ事を。告志らせん
06 とや思八れ遣ん。犬二疋者せ来ら連候と申遣れ八゛。きつ年あ者て
07 さ八ひ天゛。さら八゛先某八。御いと満申とて去んと須。鶏申ける八。
08 い可に狐。鳥遣多゛ものゝ中奈を利し遣るに。其折節何事可八候べ
09 き。そこに待天犬とまじ八利給へとさゝへ遣れ八゛。きつ年重て申
10 やう。若彼犬。申奈をる事知春゛八。我多め尓あし可利奈んとて逃去
11 ぬ。其如。たとひ人尓あ多を。奈須べき者と覚共。あ多を以天不^可^向
12 武略丹天む可八ゞ。我もぶ里やくをも川天志利ぞく遍゛し
【伊曽保中 〇丗二】
13 第丗六 者らと五躰能事
14 或時。五躰。六根をさきとして。腹をそ年んで申遣る八。我ら。
15 めん/\八。幼少の時よ里毛。其いと奈三を奈須といへ共。件の腹と
16 云もの八。王可うよ利終尓奈須こと奈くて。剰我等を召つ可ふ業
17 を奈ん志遣る。言語道断き川く王い乃次第也。今よ利以後。彼
18 腹尓志多可゛ふ遍゛可ら須゛とて。五三日八。五躰。六根何事もせ須゛。食
19 じをもとめ天居る程尓。初八腹一人能難義とぞ見衣遣類。
20 可く天日数経に遣る程尓。何可八よ可るべき。五躰六根めい王くし
21 て。終に草臥極る。古んきう春るに及び天。本のごとく腹尓
22 随ふべしと云。其ことく人としても。今迄親しき中を捨て。随べ
23 きもの尓志多可゛八ざれ八゛。天道丹毛そむき。人愛も者づ連奈
24 ん春。故にことわざにも。鳩を丹く三まめ徒くらぬと可や
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 あひたり。[犬能様にはからひ給ふべし]といひて。更におりず。
02 狐重て申けるは。先此所へおりさせ給へ。ひそかに申べき事有
03 と。しきりによべ共終におりす。鶏用有さうにあなたのかた
04 をながめければ。狐下よりみあげて。御辺は何事を見給ふぞ
05 と申ければ。されば只今御辺の物語し給ふ事を。告しらせん
06 とや思はれけん。犬二疋はせ来られ候と申ければ。きつねあはて
07 さはひで。さらば先某は。御いとま申とて去んとす。鶏申けるは。
08 いかに狐。鳥けだものゝ中なをりしけるに。其折節何事かは候べ
09 き。そこに待て犬とまじはり給へとさゝへければ。きつね重て申
10 やう。若彼犬。申なをる事知ずは。我ためにあしかりなんとて逃去
11 ぬ。其如。たとひ人にあたを。なすべき者と覚共。あたを以て不^可^向
12 武略にてむかはゞ。我もぶりやくをもつてしりぞくべし
【伊曽保中 〇丗二】
13 第丗六 はらと五体の事
14 或時。五体。六根をさきとして。腹をそねんで申けるは。我ら。
15 めん/\は。幼少の時よりも。其いとなみをなすといへ共。件の腹と
16 云ものは。わかうより終になすことなくて。剰我等を召つかふ業
17 をなんしける。言語道断きつくわいの次第也。今より以後。彼
18 腹にしたがふべからずとて。五三日は。五体。六根何事もせず。食
19 じをもとめて居る程に。初は腹一人の難義とぞ見えける。
20 かくて日数経にける程に。何かはよかるべき。五体六根めいわくし
21 て。終に草臥極る。こんきうするに及びて。本のごとく腹に
22 随ふべしと云。其ことく人としても。今迄親しき中を捨て。随べ
23 きものにしたがはざれば。天道にもそむき。人愛もはづれな
24 んす。故にことわざにも。鳩をにくみまめつくらぬとかや
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