万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 第丗七 人とろ者゛との事
02 或時人。ろ者゛に荷を於ふせ天行尓。此ろ者゛やゝも春れ八゛行奈
03 徒゛むこと有。此人き川く王い奈利とて。い多くむちを於ふせ介れ者゛。
04 ろ者゛申遣る八。加ゝ類うきめに逢んよ利八。志可し多ゞ志奈八゛やと
05 ぞ申遣る。彼人猶い多くいましめて。追やる程に。行つ可連て終
06 尓命終利ぬ。彼人[々]心に於もふ様。加ゝ類志由くせ徒多奈き者
07 を八゛。其皮ま天゛毛打いましめんとて。太鼓尓張て者ちをあて
08 遣利。其ごとく人能世に有事も。聊能奈ん可ん奈れ八゛とて。死
09 奈んと願ふべ可ら須゛。何し可[゛]命能終利をま多須゛。身を奈げ奈
10 ど春ること八。至川天ふ可き罪科多るべし。これを徒ゝしめ
11 第丗八 狼と者須とるの事
12 或狩人。狼可里行遣るに。此狼。有木陰尓可くれ居連利。然を
【伊曽保中 〇丗三】
13 者須とる見付天遣利。それ尓よ{つ}て。此狼者須とるに向て申
14 遣る八。我命を多春け給へ。ひ多春ら頼む。それ八者須と類
15 屋春くうけごふ。狼心や春く居遣る処尓。狩人来天。者須とる
16 尓申遣る八。此辺尓狼や来ると尋遣れ八゛。者須とる目づ可ひ尓
17 て。是を教遣る。狩人。彼所をさとら春゛。者る可奥に行すぎ
18 多利。其後狼罷出。い川゛く共志ら春゛丹げ去ぬ。或時此狼。者
19 春とるに行あひ遣利。者須とる申遣る八。王ごぜ八い川ぞや助
20 遣る狼可登いへ八゛。狼答云。され八゛とよ御辺能事八。よ可ん奈れと
21 御辺の眼八。ぬき捨度侍るとぞ申遣る。其如。我も人も。外尓
22 能事を春る顔奈れ共。内心甚悪道奈れ八゛。彼者須とるにふ^異。
23 速尓内心能隔を作事奈可れ。一心ふらん尓善事を春べし
24 第丗九 猿と人との事
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 第丗七 人とろばとの事
02 或時人。ろばに荷をおふせて行に。此ろばやゝもすれば行な
03 づむこと有。此人きつくわいなりとて。いたくむちをおふせければ。
04 ろば申けるは。かゝるうきめに逢んよりは。しかしたゞしなばやと
05 ぞ申ける。彼人猶いたくいましめて。追やる程に。行つかれて終
06 に命終りぬ。彼人[々]心におもふ様。かゝるしゆくせつたなき者
07 をば。其皮までも打いましめんとて。太鼓に張てはちをあて
08 けり。其ごとく人の世に有事も。聊のなんかんなればとて。死
09 なんと願ふべからず。何しか[゛]命の終りをまたず。身をなげな
10 どすることは。至つてふかき罪科たるべし。これをつゝしめ
11 第丗八 狼とはすとるの事
12 或狩人。狼かり行けるに。此狼。有木陰にかくれ居れり。然を
【伊曽保中 〇丗三】
13 はすとる見付てけり。それによ{つ}て。此狼はすとるに向て申
14 けるは。我命をたすけ給へ。ひたすら頼む。それ[は]はすとる
15 やすくうけごふ。狼心やすく居ける処に。狩人来て。はすとる
16 に申けるは。此辺に狼や来ると尋ければ。はすとる目づかひに
17 て。是を教ける。狩人。彼所をさとらず。はるか奥に行すぎ
18 たり。其後狼罷出。いづく共しらずにげ去ぬ。或時此狼。は
19 すとるに行あひけり。はすとる申けるは。わごぜはいつぞや助
20 ける狼かといへば。狼答云。さればとよ御辺の事は。よかんなれと
21 御辺の眼は。ぬき捨度侍るとぞ申ける。其如。我も人も。外に
22 能事をする顔なれ共。内心甚悪道なれば。彼はすとるにふ^異。
23 速に内心の隔を作事なかれ。一心ふらんに善事をすべし
24 第丗九 猿と人との事
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