万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 伊曽保物語下
02 第一 あ利とせ三との事
03 さる程に。春過夏多け。秋毛ふ可くて。冬能比丹毛成し可八゛。日
04 能うら/\成時。蟻あ奈よ利者い出。餌食を干奈ど須。蝉来天
05 あ利尓申八。あ奈い三し能あ利殿や。可ゝ類冬ざれ迄。さやう尓豊
06 尓餌食をも多せ給ふ物可奈。王れ尓少能餌食を多ひ給へと申
07 遣れ八゛。あ利答云。御辺八春秋のいと奈三尓八。何事を可志給ひ
08 遣るぞ登いへ八゛。蝉答云。夏秋身能い登奈三とて八。梢尓[こ]
09 多ふ八゛可利奈利。其音曲尓取乱し。ひ万奈きまゝ尓暮し
10 候といへ者゛。あ利申遣る八。今とて毛奈登゛う多ひ給八ぬぞ。う
11 多ひ長じて八。終尓舞とこそ承れ。いや志き餌食を求
12 て。何尓可八志給ふべきとて。あ奈尓入ぬ。其ごとく。人能世にあ類
【伊曽保下 〇三】
13 こと毛。我ち可ら尓をよ八゛ん程八。多し可に世の事を毛いと奈むべ
14 し。ゆ多可那る時徒ゞまや可にせざ類人八。ま川゛志うして後尓
15 くゆる奈利。さ可ん奈るとき学せざれ者゛。老天のちくゆる物
16 奈利。酔農うち見多゛れぬ連者゛。さめ天のちく由る物奈利
17 第二 お保可三とい能志ゝとの事
18 さる程尓。猪。子供あま多奈三居遣る中尓。殊尓ちいさき猪。
19 可゛まんおこして。そうの徒可さと奈るべしと思ひ天。歯をくひ
20 志八゛利。目をい可らし。尾をふ川天飛めぐ連共。傍輩等。一向これ
21 をふ^用。彼猪き越く多゛ひ天。所詮可やう能屋川者ら耳く三
22 せんよ利八。他人尓敬八れ者゛やと思ひ天。羊共能並居多る中
23 尓行天。前能ごとく振舞遣れ八゛。羊勢尓おそれ天丹げ去
24 ぬ。扨こそ此猪本座越達して居遣る所尓。狼一疋者せ来利
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 伊曽保物語下
02 第一 ありとせみとの事
03 さる程に。春過夏たけ。秋もふかくて。冬の比にも成しかば。日
04 のうら/\成時。蟻あなよりはい出。餌食を干などす。蝉来て
05 ありに申は。あないみしのあり殿や。かゝる冬ざれ迄。さやうに豊
06 に餌食をもたせ給ふ物かな。われに少の餌食をたひ給へと申
07 ければ。あり答云。御辺は春秋のいとなみには。何事をかし給ひ
08 けるぞといへば。蝉答云。夏秋身のいとなみとては。梢に[こ]
09 たふばかりなり。其音曲に取乱し。ひまなきまゝに暮し
10 候といへば。あり申けるは。今とてもなどうたひ給はぬぞ。う
11 たひ長じては。終に舞とこそ承れ。いやしき餌食を求
12 て。なにかはし給ふべきとて。あなに入ぬ。其ごとく。人のよにある
【伊曽保下 〇三】
13 ことも。我ちからにをよばん程は。たしかに世の事をもいとなむべ
14 し。ゆたかなる時つゞまやかにせざる人は。まづしうして後に
15 くゆるなり。さかんなるとき学せざれば。老てのちくゆる物
16 なり。酔のうちみだれぬれば。さめてのちくゆる物なり
17 第二 おほかみといのしゝとの事
18 さる程に。猪。子供あまたなみ居ける中に。殊にちいさき猪。
19 がまんおこして。そうのつかさとなるべしと思ひて。歯をくひ
20 しばり。目をいからし。尾をふつて飛めぐれ共。傍輩等。一向これ
21 をふ^用。彼猪きをくだひて。所詮かやうのやつはらにくみ
22 せんよりは。他人に敬はればやと思ひて。羊共の並居たる中
23 に行て。前のごとく振舞ければ。羊勢におそれてにげ去
24 ぬ。扨こそ此猪本座を達して居ける所に。狼一疋はせ来り
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