万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 遣利。あ者やと八於もへ共。我八是主奈れ八゛。彼も定天恐奈ん
02 とて。さら怒躰丹天居遣る処を。狼飛掛耳をく八へ天
03 山中尓至怒。羊も川天合力せ須゛。おめきさけび行程尓。彼
04 猪能傍輩此こゑを聞付天。終尓取籠多春け介利。
05 其時こそ。む屋く能む保ん志川累物可奈と。本能猪等耳
06 可うさんし遣る。其ことく人能世に有こと毛。よし奈きまん
07 き越起天。志多可゛へ多く於毛八ゝ。還天わざ八ひをま年く物也。
08 終に八本能志多し三奈らで八。実能多春け尓八奈らぬ物也
09 第三 きつ年と丹はと利との事
10 或時鶏。苑尓出天餌食をもとむる処尓。狐是をくら八ゞ
11 やと思ひ。先者可利こと越めぐらして申遣る八。い可に鶏殿。御
12 辺能ちゝごと八親申承候。此後八御辺共申合めと云介れ者゛。
【伊曽保下 〇四】
13 鶏誠可奈と思ふ処尓。狐申遣る八。扨も御辺の父ご八。御こゑ
14 能よ可ん奈るぞ。哀一ふしう多ひ候へ可し聞侍らんと云。鶏本め
15 あげら連天。既尓う多八んとして目をふさ起゛。くびをさし延
16 遣る所を。志や可しとく八へ天者し累程尓。鶏能こゑをきゝ付
17 て。主追懸て。我鶏ぞ登さけび介れ八゛。狐を多八゛可利遣る盤。
18 い可に狐殿。あ能いや志きものゝ分として。我鶏と申候尓。御辺
19 能鶏丹天こそあ連と。返答志給へと云介れ八゛。狐遣にもとや
20 思遣ん。其鶏をさし者奈し。跡を見可へる隙尓。鶏既尓木尓の
21 保連八゛。狐大きにぎやうてんして。空山へぞ帰り遣る。其ごとく
22 人可物をいへと教連八゛とて思案もせ須あ八てゝ物を云べ可ら寸゛。狐
23 可゛鶏を。取そこ奈ひ介るも。思案奈げ尓ものをいひ遣るゆへぞ
24 第四 多川と人との事
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 けり。あはやとはおもへ共。我は是主なれば。彼も定て恐なん
02 とて。さらぬ躰にて居ける処を。狼飛掛耳をくはへて
03 山中に至ぬ。羊もつて合力せず。おめきさけび行程に。彼
04 猪の傍輩此こゑを聞付て。終に取籠たすけけり。
05 其時こそ。むやくのむほんしつる物かなと。本の猪等に
06 かうさんしける。其ことく人の世に有ことも。よしなきまん
07 きを起て。したがへたくおもはゝ。還てわざはひをまねく物也。
08 終には本のしたしみならでは。実のたすけにはならぬ物也
09 第三 きつねとにはとりとの事
10 或時鶏。苑に出て餌食をもとむる処に。狐是をくらはゞ
11 やと思ひ。先はかりことをめぐらして申けるは。いかに鶏殿。御
12 辺のちゝごとは親申承候。此後は御辺共申合めと云ければ。
【伊曽保下 〇四】
13 鶏誠かなと思ふ処に。狐申けるは。扨も御辺の父ごは。御こゑ
14 のよかんなるぞ。哀一ふしうたひ候へかし聞侍らんと云。鶏ほめ
15 あげられて。既にうたはんとして目をふさぎ。くびをさし延
16 ける所を。しやかしとくはへてはしる程に。鶏のこゑをきゝ付
17 て。主追懸て。我鶏ぞとさけびければ。狐をたばかりけるは。
18 いかに狐殿。あのいやしきものゝ分として。我鶏と申候に。御辺
19 の鶏にてこそあれと。返答し給へと云ければ。狐けにもとや
20 思けん。其鶏をさしはなし。跡を見かへる隙に。鶏既に木にの
21 ほれば。狐大きにぎやうてんして。空山へぞ帰りける。其ごとく
22 人か物をいへと教ればとて思案もせすあはてゝ物を云べからず。狐
23 が鶏を。取そこなひけるも。思案なげにものをいひけるゆへぞ
24 第四 たつと人との事
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