万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 第八 鳩とあ利との事
02 或川能辺尓。蟻。あそぶこと有遣利。俄尓水可さ万さ利き
03 て。彼蟻をさそひ流る。うきぬ志川三ぬ春る所尓。鳩木末
04 よ利是を三て。哀奈る有様可奈と木末を少くい切て。河
05 能中尓おとし遣れ八゛。蟻是尓乗天奈ぎさにあ可゛りぬ。可ゝ里
06 遣る所尓。或人さ本のさき尓と利もちを付天。者登をさゝん
07 と須。蟻心に思ふ様。只今能恩を送う物を登思ひ。彼人乃足
08 尓志川可と喰付遣れ八゛。於びえあ可゛川天。さ本を彼尓奈げ捨
09 て。其者能色や知。然るに鳩是を覚天。何国共奈く飛去ぬ
10 其如。人能恩を請多らん者八。い可様丹毛其報を。せ八゛やと思志を可^持
11 第九 お保可三登いぬとの事
12 或者須とる。羊能遣いご尓。犬を持遣れと。ゑじき越春奈本
【伊曽保下 〇十三 四】
13 尓あ多へざれ八゛。やせ於とろへ天有遣る。狼此由を三て。御辺八
14 何とてやせ給ふぞ。我尓羊を一疋多べ。彼羊を盗取天尓介゛ん時
15 追掛まろび給へ。此事見給ふ奈ら八゛。御辺尓ゑじき越給ふべし
16 といへ者゛。実もと同心春。案能ごとく狼羊をく八へ天逃去時。
17 犬跡よ利追懸まろび多[八]連天帰遣利。者須とるい可川天云。
18 何とて羊をとられ遣るぞ登云介れ八゛。犬答云。此程ゑじき奈
19 くして散々びろう仕天候。其故尓羊をとら連天候といへ者゛。
20 実もとて。それよ利してゑじき越あ多へぬ。又狼来天。我謀聊
21 違べ可ら須゛。今一疋羊を給八れ。此度も追懸給へ。我尓聊疵を
22 付させ給へ。然共ふ可で者゛し於ふせ給ふ奈と可多く契約して。
23 羊をく八へ天。尓ぐる所を追懸。彼狼を少喰屋ぶ利天帰ぬ
24 主人是を三て。心よしとていよ/\ゑじき越あ多へ。春くや可尓春
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 第八 鳩とありとの事
02 或川の辺に。蟻。あそぶこと有けり。俄に水かさまさりき
03 て。彼蟻をさそひ流る。うきぬしつみぬする所に。鳩木末
04 より是をみて。哀なる有様かなと木末を少くい切て。河
05 の中におとしければ。蟻是に乗てなぎさにあがりぬ。かゝり
06 ける所に。或人さほのさきにとりもちを付て。はとをさゝん
07 とす。蟻心に思ふ様。只今の恩を送う物をと思ひ。彼人の足
08 にしつかと喰付ければ。おびえあがつて。さほを彼になげ捨
09 て。其者の色や知。然るに鳩是を覚て。何国共なく飛去ぬ
10 其如。人の恩を請たらん者は。いか様にも其報を。せばやと思志を可^持
11 第九 おほかみといぬとの事
12 或はすとる。羊のけいごに。犬を持けれと。ゑじきをすなほ
【伊曽保下 〇十三 四】
13 にあたへざれば。やせおとろへて有ける。狼此由をみて。御辺は
14 何とてやせ給ふぞ。我に羊を一疋たべ。彼羊を盗取てにげん時
15 追掛まろび給へ。此事見給ふならば。御辺にゑじきを給ふべし
16 といへば。実もと同心す。案のごとく狼羊をくはへて逃去時。
17 犬跡より追懸まろびた[は]れて帰けり。はすとるいかつて云。
18 何とて羊をとられけるぞと云ければ。犬答云。此程ゑじきな
19 くして散々びろう仕て候。其故に羊をとられて候といへば。
20 実もとて。それよりしてゑじきをあたへぬ。又狼来て。我謀聊
21 違べからず。今一疋羊を給はれ。此度も追懸給へ。我に聊疵を
22 付させ給へ。然共ふかでばしおふせ給ふなとかたく契約して。
23 羊をくはへて。にぐる所を追懸。彼狼を少喰やぶりて帰ぬ
24 主人是をみて。心よしとていよ/\ゑじきをあたへ。すくやかなす
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