万治版 伊曽保物語 変体仮名
図12
【伊曽保下 〇十五 六】
01 又狼来利今一川所望須。犬申遣る八。此程主人人よ利あく迄
02 ゑじき越あ多へら連。五躰も春くや可に成候へ八゛。ゑこそ参ら
03 春まじき登云者奈し遣れ八゛。何を可゛奈と望遣る程に。犬教て
04 云。主人能蔵尓様々能ゑじき有。行天用給へと云遣れ八゛。さ
05 らばとて蔵尓行。先酒つ本を三て思ひ能まゝ尓是を呑。の三
06 酔て爰彼多ゝ春゛三あ利く程尓。者須とる能う多ふを聞天。
07 彼き多奈げ成ものさへう多ふ尓。我又う多八であらんやとて。大声
08 上天於めく程尓里人聞付天。あ八や於保可三の来る八とて。弓
09 や奈ぐひ丹天者せ集。是尓依天狼終尓本ろ本゛されぬ。其如。
10 召仕者にふちをく八へざれ八゛。其主の物を徒いや春とみ衣多利
11 第十 きつ年と於保可三能事。
12 或狐。子越まふけ遣るに。狼を恐れ天。名つけ親と定む。狼
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
図12
【伊曽保下 〇十五 六】
01 又狼来り今一つ所望す。犬申けるは。此程主人人よりあく迄
02 ゑじきをあたへられ。五躰もすくやかに成候へば。ゑこそ参ら
03 すまじきと云はなしければ。何をがなと望ける程に。犬教て
04 云。主人の蔵に様々のゑじき有。行て用給へと云ければ。さ
05 らばとて蔵に行。先酒つほをみて思ひのまゝに是を呑。のみ
06 酔て爰彼たゝずみありく程に。はすとるのうたふを聞て。
07 彼きたなげ成ものさへうたふに。我又うたはであらんやとて。大声
08 上ておめく程に里人聞付て。あはやおほかみの来るはとて。弓
09 やなぐひにてはせ集。是に依て狼終にほろぼされぬ。其如。
10 召仕者にふちをくはへざれば。其主の物をついやすとみえたり
11 第十 きつねとおほかみの事。
12 或狐。子をまふけけるに。狼を恐れて。名つけ親と定む。狼おほかみ)
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