万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 懸ぬ。それ野牛能毛八。ちゞみ天ふ可き物也。故尓還而己可゛
02 春年を万とひ天。者゛多めく処を主人走寄天。烏を取天
03 いましめて。命を多川遍゛介れ共とて。羽を切天者奈し遣る。或人
04 彼烏尓向天。汝何物ぞ登とへ八゛。昨日八鷲。遣ふ八烏也と云。其如。
05 我三能程をふ^知して。人能いせいを羨者八。鷲能ま年春る可^多^烏
06 第十三 志ゝ王登ろ者゛との事
07 或ろ者゛。病志遣る処尓。志ゝ王来天其脈を取試む。ろ者゛
08 是を恐ること限奈し。志ゝ王懇能あま里に。其身を。あそ
09 こ爰を奈で万八して。い川く可い多きぞ登とへ八゛。ろ者゛謹で云。
10 志ゝ王能御手能あ多利候所八。今まで可ゆき所毛い多く候と。ふ
11 累い/\ぞ申遣る。其如。人能於毛八くを毛知須゛。懇比多゛てこそ
12 う多て遣れ。大切を徒く春登いふ毛。常尓奈れ多る人能事也
【伊曽保下 〇二十】
13 知ぬ人尓。余礼を春るも。可へ川天らうぜきとそ見衣遣る
14 第十四 野牛ときつ年との事
15 或時野牛と。狐と。可川尓[望]天。い介゛多の内尓。落入天水越
16 呑畢後。あ可゛らんと須る尓よし奈し。狐申遣る八。ふ多利奈可゛ら
17 此池能中丹天志奈んも者可那きこと奈連八゛。者可利ことを廻ら
18 して。いざやあ可゛らんとぞ云遣る。野牛尤と同心春。狐申遣る八。
19 先御辺せいをのべ給へ。其せ奈可にの本゛里て上尓あ可゛利。御辺の
20 手越取天上へ引上奉らんと云。野牛実もとてせいをのべ介る
21 処を。狐其あ多ま越ふまへ天あ可゛利笑天云。扨毛/\御辺盤
22 愚成人可奈。其ひげ程ちゑを持給八ゞ我い可ゞせん。何として可八。
23 御辺を引上奉らんや。さら八゛とて帰ぬ。野牛空井の本尓日
24 を送天。終尓者可奈く成尓遣利。其如。我も人毛。難義尓逢ん
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 懸ぬ。それ野牛の毛は。ちゞみてふかき物也。故に還而己が
02 すねをまとひて。ばためく処を主人走寄て。烏を取て
03 いましめて。命をたつべけれ共とて。羽を切てはなしける。或人
04 彼烏に向て。汝何物ぞととへば。昨日は鷲。けふは烏也と云。其如。
05 我みの程をふ^知して。人のいせいを羨者は。鷲のまねする可^多^烏
06 第十三 しゝ王とろばとの事
07 或ろば。病しける処に。しゝ王来て其脈を取試む。ろば
08 是を恐ること限なし。しゝ王懇のあまりに。其身を。あそ
09 こ爰をなでまはして。いつくかいたきぞととへば。ろば謹で云。
10 しゝ王の御手のあたり候所は。今までかゆき所もいたく候と。ふ
11 るい/\ぞ申ける。其如。人のおもはくをも知ず。懇比だてこそ
12 うたてけれ。大切をつくすといふも。常になれたる人の事也
【伊曽保下 〇二十】
13 知ぬ人に。余礼をするも。かへつてらうぜきとそ見えける
14 第十四 野牛ときつねとの事
15 或時野牛と。狐と。かつに[望]て。いげたの内に。落入て水を
16 呑畢後。あがらんとするによしなし。狐申けるは。ふたりながら
17 此池の中にてしなんもはかなきことなれば。はかりことを廻ら
18 して。いざやあがらんとぞ云ける。野牛尤と同心す。狐申けるは。
19 先御辺せいをのべ給へ。其せなかにのぼりて上にあがり。御辺の
20 手を取て上へ引上奉らんと云。野牛実もとてせいをのべける
21 処を。狐其あたまをふまへてあがり笑て云。扨も/\御辺は
22 愚成人かな。其ひげ程ちゑを持給はゞ我いかゞせん。何としてかは。
23 御辺を引上奉らんや。さらばとて帰ぬ。野牛空井の本に日
24 を送て。終にはかなく成にけり。其如。我も人も。難義に逢ん
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