万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 こと八。先我難義を遁天。人能難を除べし。我地獄尓落天
02 後。他人楽を受連八゛とて。我合力尓可^成や。これを思もへ
03 第十五 ある人。佛いのる事
04 或人。一川能仏像をあんぢして。常に名利ふくゆうを祈る。日
05 尓そひ天まづ志く。いや志く奈れ共。更尓其利生有事奈し。
06 是尓依天彼人い可川天仏像取天打く多゛く処尓。其仏の
07 みくしの中尓。金子百両有遣利。其時彼人仏を祈て云。扨毛
08 此仏。愚奈る仏可奈。我常尓。香。花。灯明越供天。経。礼拝する
09 時八。此金をあ多へ春゛して。其身を亡春時。福を定遣るよと笑
10 慶遣利。其如。悪に極り多る者八。其自然を待。善に立帰こと
11 奈し。をさへ天仏をわる可゛ごとく。悪を。善尓ひる可゛へ春様尓春べし
12 大十六 祢春゛三登祢ことの事
【伊曽保下 〇廿一】
13 或猫。家能傍尓加ゞ三ゐ天。日々尓鼡を取遣利。鼡出申
14 遣る八。何とやらん此程八。我親類一族も行方知須゛成侍るぞ。
15 誰可其行ゑ越知給ふと云。爰尓年多け多る鼡春ゝ三出申
16 遣る八。音高し志川゛ま連とよ。それ八此程例農猫と云徒
17 物。此内尓来天ゑじきに奈し侍るぞや。可まひ天油断春奈。
18 奈どゝ申遣れ八゛。各せんぎ評定春。然るにおゐ天八遣ふよ利
19 して。各天井尓斗住べしと法度を定利。猫此由を聞て。
20 い可ん共せん方奈さに。多八゛可ら者゛やと思ひ天。死多る躰を顕
21 して四足をふ三のべ。久敷者多ら可須゛してゐ遣る処を。鼡ひ
22 そ可に此こと越見天。上よ利猫尓申遣る八。い可に猫。そら多゛満
23 里奈しそ。汝可゛皮を者可゛れ。ふん可う能ふ多尓成共下尓さ可゛類
24 間敷ぞ登云遣れ八゛。猫ぜひ尓ふ^及おきあ可゛利ぬ。其如一度人を
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 ことは。先我難義を遁て。人の難を除べし。我地獄に落て
02 後。他人楽を受ればとて。我合力に可^成や。これを思もへ
03 第十五 ある人。佛いのる事
04 或人。一つの仏像をあんぢして。常に名利ふくゆうを祈る。日
05 にそひてまづしく。いやしくなれ共。更に其利生有事なし。
06 是に依て彼人いかつて仏像取て打くだく処に。其仏の
07 みくしの中に。金子百両有けり。其時彼人仏を祈て云。扨も
08 此仏。愚なる仏かな。我常に。香。花。灯明を供て。経。礼拝する
09 時は。此金をあたへずして。其身を亡す時。福を定けるよと笑
10 慶けり。其如。悪に極りたる者は。其自然を待。善に立帰こと
11 なし。をさへて仏をわるがごとく。悪を。善にひるがへす様にすべし
12 大十六 ねずみとねことの事
【伊曽保下 〇廿一】
13 或猫。家の傍にかゞみゐて。日々に鼡を取けり。鼡出申
14 けるは。何とやらん此程は。我親類一族も行方知ず成侍るぞ。
15 誰か其行ゑを知給ふと云。爰に年たけたる鼡すゝみ出申
16 けるは。音高ししづまれとよ。それは此程例の猫と云徒
17 物。此内に来てゑじきになし侍るぞや。かまひて油断すな。
18 などゝ申ければ。各せんぎ評定す。然るにおゐてはけふより
19 して。各天井に斗住べしと法度を定り。猫此由を聞て。
20 いかん共せん方なさに。たばからばやと思ひて。死たる躰を顕
21 して四足をふみのべ。久敷はたらかずしてゐける処を。鼡ひ
22 そかに此ことを見て。上より猫に申けるは。いかに猫。そらだま
23 りなしそ。汝が皮をはがれ。ふんかうのふたに成共下にさがる
24 間敷ぞと云ければ。猫ぜひにふ^及おきあがりぬ。其如一度人を
|