万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 能く八う遣゛ん也。戦場尓向へ八゛。常尓徒八ものと云者毛。ふるひ
02 王奈ゝくとぞ見衣遣る。然ら春゛八奈んぞ速尓。敵古くを亡さる。
03 腰ぬけ能居斗。多ゝ三。多いこ尓。手拍子共。是等能ことをや可^申
04 第十八 おとこ二女をも川こと
05 或男。二人妻を持遣利。独八年多け。一人八若し。或時此男。老
06 多る女能本尓行時。其女申遣る八。我年多けよ八ひ衰へ天。
07 若男尓。加多らふ奈どゝ人能あざ介るべきも者づ可し遣れ八゛。御
08 辺能びんひげ黒き越ぬい天。志ら可゛八゛可利を残春べしとて
09 多ちまち黒きをぬい天。白きを残世利。此男あ奈うしと
10 思へ共。をんあひ尓保多゛され天い多起を毛顧春゛。ぬ可れ尓介利。
11 又或時。若女能本尓行遣るに。此女申遣る八。我盛成者能身
12 として。御辺能様尓白髪と奈らせ給ふ人を。妻と可多らひ
【伊曽保下 〇廿三】
13 遣る越。世に男能奈き可奈んどゝ。人能笑んも者づ可し遣れ者゛
14 御辺のびんひげの白き越ぬ可んと云天。是をこと/\具ぬき
15 捨る。され八゛此男。あ奈多尓候へ八゛ぬ可れ。古奈多丹天八ぬ可連天。あ
16 遣゛く尓八。びんひ希゛奈ふ天ぞゐ多利遣る。其ごとく。君子多
17 らん者。ゆへ奈き。いんらん尓遣可゛連奈ば。多ちまち可ゝ類恥を
18 請べし。志可の三奈ら須゛。二人能機嫌を者可らふ八。苦常尓深
19 物也。可る可゛ゆへ尓ことわざ尓云。ふ多利の君に徒可へ可゛多しとや
20 第十九 可゛ざ三能事
21 或加゛ざ三。あま多子越持遣る也其子。己れ可゛くせに。よこ者゛し里
22 春る処を。母是を三ていさめ天云。汝等何とて横様尓八あゆ三
23 遣るぞ登申遣れ八。子供謹而承。一人能くせ丹天も奈し。我等兄弟
24 皆可くのごとし。然ら八゛母上あ利き給へ。それを学奉らんと云介れ
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 のくはうげん也。戦場に向へば。常につはものと云者も。ふるひ
02 わなゝくとぞ見えける。然らずはなんぞ速に。敵こくを亡さる。
03 腰ぬけの居斗。たゝみ。たいこに。手拍子共。是等のことをや可^申
04 第十八 おとこ二女をもつこと
05 或男。二人妻を持けり。独は年たけ。一人は若し。或時此男。老
06 たる女の本に行時。其女申けるは。我年たけよはひ衰へて。
07 若男に。かたらふなどゝ人のあざけるべきもはづかしければ。御
08 辺のびんひげ黒きをぬいて。しらがばかりを残すべしとて
09 たちまち黒きをぬいて。白きを残せり。此男あなうしと
10 思へ共。をんあひにほだされていたきをも顧ず。ぬかれにけり。
11 又或時。若女の本に行けるに。此女申けるは。我盛成者の身
12 として。御辺の様に白髪とならせ給ふ人を。妻とかたらひ
【伊曽保下 〇廿三】
13 けるを。世に男のなきかなんどゝ。人の笑んもはづかしければ
14 御辺のびんひげの白きをぬかんと云て。是をこと/\くぬき
15 捨る。されば此男。あなたに候へばぬかれ。こなたにてはぬかれて。あ
16 げくには。びんひげなふてぞゐたりける。其ごとく。君子た
17 らん者。ゆへなき。いんらんにけがれなば。たちまちかゝる恥を
18 請べし。しかのみならず。二人の機嫌をはからふは。苦常に深
19 物也。かるがゆへにことわざに云。ふたりの君につかへがたしとや
20 第十九 がざみの事
21 或がざみ。あまた子を持ける也其子。己れがくせに。よこばしり
22 する処を。母是をみていさめて云。汝等何とて横様にはあゆみ
23 けるぞと申けれは。子供謹而承。一人のくせにてもなし。我等兄弟
24 皆かくのごとし。然らば母上ありき給へ。それを学奉らんと云けれ
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