万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 者゛さら八゛とて。先にあ利き遣るを見れ八゛。我横者゛し里に少も
02 多可゛八須゛。子共笑天申遣る八。我ら横尓あ里き候可゛。母上能行
03 給ふ八。多てあ利き可。そ者゛あ利き可登。笑遣れ八゛。詞奈ふして
04 居多利遣類。其ごとく。我身能くせを八゛可へ利見須゛。人能過を者゛云
05 物也。若左様尓人能笑八ん時八退て。人能ぜひを見るべき尓や
06 第二十 く志゛やくと徒る能事
07 或時鶴。くじやくと志゛ゆん志゛由くして遊遣るに。く志゛やく我身
08 を保め天申遣る八。世中尓我徒者゛さ尓似多る八あらし。絵尓
09 書共及可゛多し。光り八玉丹毛満さ利徒べし奈どゝ。保こ利介れ八゛。
10 鶴答云。御辺の志゛まん尤よぎせぬ事丹天候。空を可け累
11 物能中尓。御辺尓奈らび天果報めで多き物八候まじ。但御
12 身尓可け多ること二川候。一川尓八。御足本き多奈げ奈る八錦を
【伊曽保下 〇廿四】
13 きて。足尓どろを付多る可゛ごとし。二川尓八。鳥とい川八。高飛を以
14 其徳と須。御辺八飛といへ共遠くゆ可須゛。是を於もへ八゛つ者゛さ盤。
15 鳥丹して其身八介多゛もの丹てあん成ぞ。少き徳尓保こ利
16 て。大成そんを八゛わきまへ春゛やとぞ恥を志めし遣る。それよ里
17 して。く志゛やくわ川゛可尓飛あ可゛るといへ共。此事を思ふ時八。徒者゛さ
18 よ八利天勢奈し。其如人として。我保まれをさゝぐる時八。人能尓く
19 見越可うふ利天者て耳八あやま利をいひ出さるゝもの也。加゛まん
20 能人多利といへ共。道理を以天其身をいさめ八゛。用ざる可本をする
21 といふ共。心に八実もと思ひ天。聊も遍利く多゛る心あるべし
22 第廿一 人を祢多む八身を祢多むと云事
23 或御門。二人能人をめしい多゛し給ふこと有。一人八欲心ふ可き者也。今
24 一人八祢多む心深き者也。御門。二人能者に仰介る八。汝等。我等耳
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 ばさらばとて。先にありきけるを見れば。我横ばしりに少も
02 たがはず。子共笑て申けるは。我ら横にありき候が。母上の行
03 給ふは。たてありきか。そばありきかと。笑ければ。詞なふして
04 居たりける。其ごとく。我身のくせをばかへりみず。人の過をば云
05 物也。若左様に人の笑はん時は退て。人のぜひを見るべきにや
06 第二十 くじやくとつるの事
07 或時鶴。くじやくとじゆんじゆくして遊けるに。くじやく我身
08 をほめて申けるは。世中に我つばさに似たるはあらし。絵に
09 書共及がたし。光りは玉にもまさりつべしなどゝ。ほこりければ。
10 鶴答云。御辺のじまん尤よぎせぬ事にて候。空をかける
11 物の中に。御辺にならびて果報めでたき物は候まじ。但御
12 身にかけたること二つ候。一つには。御足本きたなげなるは錦を
【伊曽保下 〇廿四】
13 きて。足にどろを付たるがごとし。二つには。鳥といつは。高飛を以
14 其徳とす。御辺は飛といへ共遠くゆかず。是をおもへばつばさは。
15 鳥にして其身はけだものにてあん成ぞ。少き徳にほこり
16 て。大成そんをばわきまへずやとぞ恥をしめしける。それより
17 して。くじやくわづかに飛あがるといへ共。此事を思ふ時は。つばさ
18 よはりて勢なし。其如人として。我ほまれをさゝぐる時は。人のにく
19 みをかうふりてはてにはあやまりをいひ出さるゝもの也。がまん
20 の人たりといへ共。道理を以て其身をいさめば。用ざるかほをする
21 といふ共。心には実もと思ひて。聊もへりくだる心あるべし
22 第廿一 人をねたむは身をねたむと云事
23 或御門。二人の人をめしいだし給ふこと有。一人は欲心ふかき者也。今
24 一人はねたむ心深き者也。御門。二人の者に仰けるは。汝等。我等に
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