童 蒙 教 草


巻の一

第四章 働く事

     (イ)百姓其子に遺言の事 寓言

 或る百姓病に罹て全快の覚束なきに至り、つら/\死後の事を案じて、農業は我生涯勉めし仕事なれば子供等へも此業を継がして出精させたきものと思ひぬれば、乃ち工夫を運らして兄弟の子供を呼び、遺言して云く、汝等へ遺物(ゆゐもつ)として与ふる物は我田地と葡萄の畑となり、これを汝兄弟にて寄合(よりあひ)に保つべし、されども皆田畑(でんばた)を決して他人の手に渡すべからず、其子細は田畑の外に余は別の宝物を所持する哉も計り難し、若しこれあらば地面の下一尺より深からざる処へ埋め置きし筈なりと。
 子供等は此遺言を聞き、病人の宝物と云ひしは兼て貯(たくはへ)の金子を畑へ埋めしに相違なしと思ひ、親父(おやぢ)の死後に至り、兄弟力を合せて其田畑も葡萄の畑も隅々に至るまで鋤(す)きかへしたりしが、一銭の金をも掘出さずして一時は大に気を落したれども、斯く地面を鋤きかへしたるに由り、其年の作物は格別によく実り、秋の収納に至てこれを見れば、真に宝物を掘出せしに異ならざりしと。


・類話などについて

タウンゼント 80.農夫と息子たち

 ある農夫が死に際して、自分が畑に心血を注いだように、息子たちにも畑仕事に精を出してもらいたいと願った。
 彼は息子たちを、枕元に呼び寄せるとこんなことを言った。
「息子たちよ、よくお聞き、実はブドウ畑に、宝が隠してあるのだ」
 父親が死ぬと、息子たちは、スコップとクワを手に、畑を隅々まで掘り返した。だが結局、宝は見つからなかった。

 しかしその秋、息子たちは、莫大なブドウの収穫という宝を手にしたのだった。

Perry42 Chambry83 Caxton6.17 La Fontaine5.9  Type910E = TMI.H558.7 (Aesop)


日本昔話通観インデックス 424 父の遺言
父親が怠け者の息子に、裏の畑に黄金を隠してあるから、掘り出して使え、と遺言して死に、息子は畑一面を掘るが黄金は見つからない。隣人のすすめで息子はその畑に作物を作り、豊作となり金もうけをする。

日本昔話通観インデックス 730 田の中の財布
作男が大田の草取りをいい加減にすませると、旦那が田の中にわざと財布を落とし、探し出した者に与える、と言う。作男は田の隅々まで掻きまわし、草取りは首尾よくできる。

Type1644 = TMI.N633
宿屋の主人は、男爵から、教育は人を裕福にすると聞き、学校へ行く。先生は、彼に「来るのが遅すぎた」と言う。宿屋の主人は、1日ごとに早く学校へ行き、夜明けの薄暮に、黄金の詰まった財布を見つける。
(先生が宿屋の主人に「来るのが遅すぎた」と言ったのは、「学校で学ぶには、年を取りすぎている」という意味で言った)


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