巻の一
第五章 自から其身を動かし自から其身を頼み一身の独[立]を謀る事
(イ)力の神と御者との事 寓言
性質卑怯なる御者あり。車に荷物を載て狭き路を走りしが、其車の輪ねばき泥の中に陥り、馬の力にてこれを引出すこと能はず、御者は途方に暮れ大音揚て力の神を念じ、ヘルクリス我を助け給へと呼はりければ、不思議なるかな、一片の黒雲天降(あまくだ)りて神体を顕はし、命ぜられけるは、見苦しき奴かな、何故に斯く平伏するや、早くも起て馬に鞭て、汝の肩を入れて車の輪を押せ、是即ち汝を助る神力なりと。
・類話などについて
タウンゼント 12.ヘラクレスとウシ追い
あるウシ追いが、ウシに車をひかせて、田舎道を進んで行った。すると、車輪が溝に深くはまり込んでしまった。頭の弱いウシ追いは、牛車の脇に立ち、ただ呆然と見ているだけで、何もしようとはしなかった。そして、突然大声でお祈りを始めた。
「ヘラクレス様、どうか、ここに来てお助け下さい」
すると、ヘラクレスが現れて、次ぎのように語ったそうだ。
「お前の肩で、車輪を支え、ウシたちを追い立てなさい。それからこれが肝心なのだが、自分で何もしないで、助けを求めてはならない。今後そのような祈りは一切無駄であることを肝に銘じなさい」
自助の努力こそが、最大の助け
Pe291 Cha72 Ba20 Avi32 Hou61 Charles101 Laf6.18 TMI.J1034 (Ba)
パンチャタントラ2.130 アジアの民話12 パンチャタントラ 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
吉祥天は努力する獅子の(如き)人物に近づく。怯者は「運命だ、運命だ」と言う。運命を克服し自らの最大の力を以て男らしく振舞え。もし努力がなされて成功しなければ、何の落度があろう。
ヒートパデーシャ 2.4 金倉圓照 北川秀則 訳 岩波文庫
決断力を欠く人と、/怠惰なる人、それにまた、/運命論者と、敢闘の/精神を欠く人々を、/吉祥天女はその胸に/かき抱くことを望まざり。/あたかも若き人妻が/老いし良人を抱くことを/望まざるにも似たるなり。
ヒートパデーシャ 4.46 金倉圓照 北川秀則 訳 岩波文庫
天運を至上となす王は、/幸も不幸もその因は、/天運にありと思いなし、/己が身すらも動かさず。
Thomas Bewick p115 聖者に祈る船乗りたち
航海中にひどい嵐に見舞われた時、船員たちはそれぞれ、大勢の聖者たちにお祈りをした。それを見かねたある船員がこう言った。
「お前たちは何をしているのだ? 聖者たちがやって来る前に、全員が溺れてしまったらどうするんだ? 役立つこともせずに、お祈りだけで助かろうとは虫がよすぎるぞ」
教訓
賢い人は、目的を達成するためには、身近で確実なことをする。そして、大切な事柄は他人に任せたりせずに、自分自身で行うものである。
現実味のない希望にすがるのは時間の浪費である。そして、努力の伴わない、祈りは罪である。自身でなんの努力もせずに、神様にお願いして、奇跡を望んでも無駄である。
Perry30 Chambry53
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