童 蒙 教 草


巻の一

第五章 自から其身を動かし自から其身を頼み一身の独[立]を謀る事

          (ロ)麦畑の雲雀の事 寓言

 卯月の天気暖なる麦の畑に巣をかけて雛子を養ふ雲雀あり。餌を求めに出る時、其雛子へ留主中の事によく気を付けよとて云付け置き、日暮に巣に帰りしかば、雛子の云へるに、今日は畑の主人来(きたり)て其隣の人へ此麦を刈取らんことを頼居たりと告ぐれば、親鳥はいまだ恐るゝに足らずとて驚く気色もなく、翌日も亦餌を求めに出掛けしに、其日暮雛子の云へるには、今日も畑の主人来りて其懇意の人へ麦刈を頼居たりと告ぐれども、親鳥は尚も驚かず、隣の人へ頼むとも懇意の人に頼むとも更に気遣なければ安心せよとて、其翌日も例の如く餌の詮索に出掛け、日暮に帰りければ、雛子云へるに、今日は主人親子にてこゝに来り、明朝より親子二人にて此麦を刈取らんとの話ありしと云ければ、親鳥は始て驚き、されば我等も覚悟すべき時節なり、隣の人や懇意の者を頼むなどのきばりにては恐るゝに足らざれども、自から自分の仕事を為さんとありては必ず其言葉に相違あるまじとて、即日に麦畑を立退しといふ。


・類話などについて

タウンゼント 202.ヒバリとその雛

 春先のこと、ヒバリが新緑の小麦畑に巣を作った。それから、雛たちはぐんぐん成長し、空を飛べるまでになっていた。そんな時、畑の主が、たわわに実った作物を見てこう言った。
「近所の皆に頼んで、刈り入れを手伝ってもらわねばなるまいな」
 一羽の雛が男の話を聞いて、「どこか安全な場所に避難しなければなりません」と、母親に言った。すると母親はこう答えた。
「まだ、避難しなくても平気なのよ。友達に手伝ってもらおうなんていうのは、刈り入れを真剣には考えていない証拠なんだからね……」
 数日後、畑の主がまたやって来て、実が入りすぎて落ちた小麦を見てこう言った。
「明日は、使用人と一緒に来なければなるまい。そして雇えるだけ人を集めて、刈り取りをせぬことには……」
 母ヒバリはこの言葉を聞いて、雛たちに言った。
「さあ、坊やたち、出掛ける時が来ました。今度こそ彼は本気です。友達を頼りにせず、自分自身で刈り取ろうとしているのですから……」

自助努力こそが、我が身を助ける

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小学読本 田中義廉 明治7年8月改正 文部省 (初版明治6年)

巻之二 第四

雲雀、巣を、麦畠の間に、造りて、雛を育てたり、○麦は、已に熟して、刈るべき時に至りたるに、雛は、未ダ自由に、飛ぶこと能はず、一日、親鳥、食を求めんとて、飛び去り、暮に及びて、帰り来れば、雛告げて今日、此畠主なる農夫、其子と共に来りて、明日は、近隣の人を雇ひて、此麦を、刈り取らんとて、帰れりと云ふ、親鳥聞きて、彼レ近隣の人を、雇はんとならば、未ダ急には、刈取るべからず、明日は、此処にありとも、恐るゝに足らずといひ、其翌日も、亦食を求めんとて、飛び去りたり
かくて、日の暮るゝ比、親鳥帰り来れば、雛又告げて、今日も、農夫、其子と共に来りしが、近隣の人も、同じく、己が作りたる、麦を刈るに、暇あらされば、明日は、朋友、親族を頼みて、刈り取らんとて、帰れりと云ふ、親鳥は、彼レ尚他人を頼むの、心あらば、明日も、憂ふるに足らずと、云へり
さて其翌日親鳥例の如く、飛び去りて、帰り来るに、雛の云ふ、今日は、農夫父子来りて、かく麦の熟せるうへは、最早、他人の力を、待つに暇あらず、明日は、自(ミヅカラ)刈り取るべしとて、帰れりと云へり
親鳥は、これを聞きて、然らば我等も、疾く此処を、立ち去るべし、農夫が、自刈り取らんと、決したるうへは、必日を延ばすべからずと、いへりとぞ、
親鳥の言、実に理あり、地人に依りて、事を成さんとする者は、恐るゝに足らざれども、自為さんと決する時は、須臾も、猶予せざる、べければなり、されば、人々、皆自為さんことを、志して、他人の力をば、頼むべからず

註: (この教科書は、アメリカのウイルソン・リーダーからの翻訳)

日本の国語教科書で一番最初に取り上げられたのが、この寓話である。


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