童 蒙 教 草


巻の二

第八章 謙退する事

     (イ)仮着したる烏の事 寓言

 身の程を知らざる烏ありて、自から思ふに、我身の孔雀に及ばざるは唯衣裳なき故なり、美しき衣裳だにあらば孔雀の仲間に入るも更に差支の筋はあるまじと、十分に高慢の心を抱き、乃ち孔雀の羽根を集て身を飾り、仮着の装(よそほひ)既に成就して、朋輩の烏へ別を告げ、今日より我身は最早烏にあらずとて、孔雀の仲間に這入たり。されども内に実なき者は外に虚を飾るべからず。仮着の衣裳美なりと雖ども、元身の賎しき烏なれば、外見(ウハベ)を作る容体も何か不都合にて、其偽(いつはり)忽ち露見に及び、孔雀等は大に怒て、彼羽根を尽く剥取り、本の黒き烏と為して追放しければ、曲者も今はせん方なく、其朋輩に帰らんとすれども面目なく、彼方此方(アチコチ)にて痛く恥辱を蒙り、遂に身を容るゝの処を失ひしといふ。


・類話などについて

小学修身書 二 木戸 麟  初版 明治14年7月 原亮三郎 出版



○衣服にほこりて身をあやまりたる  鴉のはなしあり  或おろかなる 鴉ありて おのが衣服の あやなきを はづかしく おもひ いかにして 身をかざり 仲間のものに ほこらんと ひそかに 孔雀の 落羽を ひろひ おのが 尾羽根の あひだに はさみ 仲間にむかひ われは かく うつくしき 衣服を つけたれば 汝等と あそぶは けがらはしといひて 孔雀のむれに 飛びいりたるが 孔雀ともは たがひにめくばせして いやしき 鴉の ふるまひかなと 其のにせ羽をばこと/\く はぎとり 鴉は鴉の群れに あるこそ よけれと 喙をそろへてつきだしたれば ほこり鴉は 詮方なく 本の仲間へ 入らんとしたれども 初め之を さけすみたるにより 群れ入る鴉 一羽も 承知 せさりしといふ
                                             菱澤筆

注:この教科書の話は、童蒙教草からではなく、渡辺温 訳の「通俗伊蘇普物語」からとられているようである。

通俗伊蘇普物語 第四 呆鴉の話 (6) 明治5年 渡辺温 訳 

  或呆鴉(あほうからす)。いかにもして身を飾(かざ)り。仲間(なかま)鴉に誇(ほこ)らんものをと。窃(ひそか)に孔雀(くじやく)の脱羽(ぬけはね)を拾(ひろ)ひ。己(おの)が尾羽根の間にさしこみ。今迄の朋輩(ほうばい)を軽侮(さげすむ)で。美(うつく)しき孔雀の群(むれ)へ飛(とび)いると。孔雀は直(ぢき)にこのまぎれものを見出(みだ)し。にくき奴(やつ)かなと其仮羽(かりぎ)を剪(はぎ)とり。汝(おめへ)は汝(おめへ)の事をしなせへと云て。嘴(くちばし)をそろへて衝逐(つきだ)したり。そこで呆鴉は外(ほか)に行(ゆく)べき方(かた)もなければ。また故(もと)の処へ立かへり。ふたゝび仲間(なかま)へ入んとすると友鴉(ともからす)ども承知(しようち)せず。さきに彼奴(きやつ)の誇(ほこ)りたる顔色(つらつき)がにくしと云て。なか/\仲間入をばさせず。ときに古老(こらう)の鴉が親切に説諭(いけん)して。「コレ。汝(きさま)。造物者賦与之分際(てんたうさまがさづけさつしやつたぶんざい)を守(まも)つて居たなら。なんと長上(めうへ)のものに罰(しから)れもせず。同輩(なかま)のものに窘(いぢ)められもせまいに

Houston 21 カケスとクジャク

  カケスは、クジャクの歩き回っている庭園へと入って行き、抜け落ちたクジャクの羽を見付けた。カケスはその羽を自分の尾にくくりつけると、庭に降りてクジャクたちの方へ向かって気取って歩き出した。カケスがやって来ると、クジャクたちはすぐに彼が偽物であることに気づき、カケスの許へと駆け寄ると、彼をつついて羽根飾りを抜き去った。彼は仲間のカケスの許へ戻るしかなかった。しかし、仲間はその様子を離れた所から見ていたので、このカケスに腹を立てていた。そして彼に言った。
「美しい羽をつけたからって、素晴らしい鳥になるわけではないんだよ」

Pe472  Pha1.3  Cax2.15  Laf4.9  Krylov7.26  エソポ1.15 伊曽保2.27


タウンゼント 57.虚飾で彩られたカラス 

 ある、言い伝えによると、ジュピター神は、鳥たちの王様を決めようとしたことがあったそうだ。ジュピター神は、鳥たちの集まる日時を決め、その中で一番美しい者を王様にするというお触れを出した。
 カラスは自分が醜いことを知っていたので、美しく装うために、野や森を見てまわり、他の鳥たちが落とした羽を拾い集め、身体中に貼りつけた。
 約束の日、鳥たちはジュピター神の前に集まった。そして、色とりどりの羽で着飾ったカラスも姿を見せた。ジュピター神は、カラスの羽が美しいので、彼を、王様にしようとした。 
 すると、鳥たちは、憤然と異議を申し立て、それぞれ自分の羽をカラスから引き抜いた。

 結局、カラスに残されたのは、自分自身の羽だけだった。

Pe101 Cha162 Ba72 Charles51 TMI.J951.2 (Aesop)

シャンブリ161 小烏と大烏ども イソップ寓話集 山本光雄 訳 岩波文庫

 一羽の小烏はその柄の大きさが他の小烏どもより優れていましたので、この同族どもをさげすんで、大烏どものところへ行って彼らと一緒に暮らすことを求めました。しかし彼らは彼の姿や声をさげすんで、彼をぶって追っぽり出しました。彼は彼らに追っ払われると、再び小烏どものところへ帰ってきました。だが、小烏どもは彼の侮辱に腹を立てていましたので、彼を迎え入れてはくれませんでした。こうして彼はどちらからも交わりを絶たれるようなことになりました。
 こういう風に人間でも自分の国を見捨てて他の国を選ぶ人は他所の国では外国人だというので善く思われませんし、自分の国の人には、彼らをさげすんだというので、面白く思われないものです。
Perry123

タウンゼント 192.カラスとハト

 カラスは、ハトたちが小屋の中で、たくさん餌をもらっているのを見ると、その餌にありつこうと、身体を白く塗って仲間に加わった。
 ハトたちは、カラスが黙っていたので、仲間だと思い、彼を小屋に入れてやったのだが、しかしある日のこと、カラスは迂闊にも、鳴き声を上げてしまった。ハトたちは、カラスの正体を見破ると、嘴でつついてカラスを追い立てた。
 カラスは、そこで餌にありつけなくなると、自分の仲間の許へと帰っていった。しかし、カラスたちもまた、彼の色が違うので仲間とは認めず、彼を追い払った。

このようにカラスは、二つの生活を望んだために、どちらも失うことになった。

Pe129 Cha163 エソポ2.18  (Aesop)

日本昔話通観インデックス592 猿の目抜き

猿が、迷いこんだ一つ目猿の国で二つ目をばかにされ、目の一つを抜いて仲間に入れてもらう。猿は元の仲間にもどろうとするが、一つ目だ、とばかにされてもどれない。

サキャ格言集 77 78 今枝由郎訳 岩波文庫

過った学問をした人は/正しい学問をした人を軽蔑する。/ある島では甲状腺腫がないと/不具者だと非難される。

きっちり仕事を出来ない者は/きっちり仕事をする人を誹謗する。/一本足の国に行けば/二本足の者は人と見なされない。

タウンゼント 188.オオカミとキツネ

 ある日のこと、あるオオカミの群に、大層大きくて力のつよいオオカミが生まれた。彼は、強さ・大きさ・速さと、どれをとっても、並外れていたので、みなは、彼を「ライオン」と呼ぶことにした。
 しかし、このオオカミは、体は大きかったが、その分思慮に欠けていたので、皆が「ライオン」
と呼ぶのを真に受けて、仲間から離れて行くと、専らライオンと付き合うようになった。
 これを見て、年老いて狡知に長けたキツネが言った。
「おいおい、狼さんや、一体、どうすりゃお前さんのような馬鹿気たことができるのかね。まったく、その、見栄と虚栄心ときたひにゃ……。いいかね、お前さんは、オオカミたちの間では、ライオンのように見えるかもしれないが、しかし、ライオンたちの間じゃ、ただの狼にしか見えないんだよ……」

Pe344  Ba101 TMI.J952.1 (Ba)


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