注:この教科書の話は、童蒙教草からではなく、渡辺温 訳の「通俗伊蘇普物語」からとられているようである。
通俗伊蘇普物語 第四 呆鴉の話 (6) 明治5年 渡辺温 訳
或呆鴉(あほうからす)。いかにもして身を飾(かざ)り。仲間(なかま)鴉に誇(ほこ)らんものをと。窃(ひそか)に孔雀(くじやく)の脱羽(ぬけはね)を拾(ひろ)ひ。己(おの)が尾羽根の間にさしこみ。今迄の朋輩(ほうばい)を軽侮(さげすむ)で。美(うつく)しき孔雀の群(むれ)へ飛(とび)いると。孔雀は直(ぢき)にこのまぎれものを見出(みだ)し。にくき奴(やつ)かなと其仮羽(かりぎ)を剪(はぎ)とり。汝(おめへ)は汝(おめへ)の事をしなせへと云て。嘴(くちばし)をそろへて衝逐(つきだ)したり。そこで呆鴉は外(ほか)に行(ゆく)べき方(かた)もなければ。また故(もと)の処へ立かへり。ふたゝび仲間(なかま)へ入んとすると友鴉(ともからす)ども承知(しようち)せず。さきに彼奴(きやつ)の誇(ほこ)りたる顔色(つらつき)がにくしと云て。なか/\仲間入をばさせず。ときに古老(こらう)の鴉が親切に説諭(いけん)して。「コレ。汝(きさま)。造物者賦与之分際(てんたうさまがさづけさつしやつたぶんざい)を守(まも)つて居たなら。なんと長上(めうへ)のものに罰(しから)れもせず。同輩(なかま)のものに窘(いぢ)められもせまいに