童 蒙 教 草


巻の四

第二十五章 益なき悪事を為さゞるやう誠を尽す事

     (イ)蜜蜂と黄蜂の事 寓言

 黄蜂と蜜蜂と出逢ひ、黄蜂の云へるに、「世間の人、皆余を嫌ふて君を愛するは何故なるや。不審千万なり。御互に容色(ナリカタチ)も大抵相似寄り、唯余が体には金色の筋がありて少しく君よりも綺麗なるのみ。余も君も共に羽根ある蟲にて、共に蜜を好み、或は気に叶はぬことあれば人を刺すなど、少しも相異なることなきのみか、余は折節人の家にも這入り、其食事の器にとまりなどして、君に較ればよほど人に親しくすれども、人は常に余を悪み、余を殺さんとする者多し。これに引替へ君は疑の心深くして人には甚だ疏縁なるに、世の人は却てこれを愛し、君のためには家を作り家根をふき、冬の間も丁寧に世話してこれを養ふは何故ぞや。実に驚くべき次第なり」と。
 蜜蜂の云く、「こは外の訳にあらず。君が人のために益を為さずして、却てこれを煩はし其邪魔を為すゆゑ、世の人は皆君の近づくを好まざるなり。余は唯毎日いそがしくて人のために蜜を集るゆゑ、人も自から余が仕事の無益ならざるを知れり。今君のために謀るに、人の好まざる処へ妄に出掛て無益に時刻を費すより、この暇を以て何か世のために益あることを勉め給ふ方然るべきなり」と。


・類話などについて

クルイロフ寓話集 7.10 蝿と蜜蜂 内海周平 訳 岩波文庫

 春、そよ風の吹く庭で、細い茎に一匹の蝿が止まって揺れていた。花に止まっている蜜蜂を見て、横柄な口をきいた。
 「どうしてきみは、朝から晩まで一日じゅうあくせく働いているんだ! わたしがきみだったら、一日でばててしまうよ。ほんの一例だけど、まさに極楽のようなわたしの暮らし振りを見てごらん! わたしの仕事といえば、舞踏会に行ったり、お客に呼ばれて行くことだけさ。べつに自慢するわけじゃないが、都会のお偉方や金持ちの家はみんなわたしの知り合いさ。そこでご馳走になってる様子をきみに見せたいね! どこかで婚礼や名の日の祝いがあれば、かならずまっ先に馳けつけ、豪勢な陶器の大皿で食べ、輝くクリスタルガラスの杯で甘いぶどう酒を飲み、どのお客よりも先に、うまそうな甘いものの中から好きなのをつまみ取る。そのうえ、女性に敬意を表して、若い美人たちのまわりを飛びまわり、ばら色の頬や雪のように白い襟首に止まって一息つくのさ。」
 「そんなこと百も承知だよ」と蜜蜂が答える。「でも、きみは誰にも好かれていないし、宴会は、きみがいるとみんな顔をしかめるだけで、きみが家に姿を見せると、恥ずかしくなってきみを追い払うといううわさも聞いてるよ。」
 「その通りだ」と蝿は言う。「追い払われるよ! それがどうした? 一つの窓から追い出されたら、別の窓から飛び込むまでのことさ。」 

名の日の祝い: 自分の洗礼名と同じ名の聖者の祭日を記念する祝い。

L’Estrange34 アリとハエ

 ある時、アリとハエが激しい言い争いをした。
「世界中いたる所を楽しむ特権を私は有しているのです」ハエが言った。「寺院などあらゆる建物の扉は私のた
めに開いています。私は神に捧げられた生贄や王の宴会の料理を全て味見するのです。私は金や銀も思いの
まま、その上、肉や酒は最上で、しかも、金は一銭も払う必要はない。王冠を踏みつけ、私の気に入った婦人の
唇に口づけするのです。こうしたことが一つたりとて君にできますか?」
「なんていうことでしょう」アリが言った。「あなたは、神々の祭壇やお姫様方の戸棚や、饗宴だろうとお茶会だろうと
あらゆる所へ出入りできると自慢しているようですが、あなたはお客ではなく、単に侵入しているだけではないの
ですか? 人々はあなたのような者を大いに疎み、あなた方を捕まえたらすぐさま殺すのではありませんか。あ
なたは、彼らにとって、疫病神以外の何者でもありません。あなたの息は蛆をはらみます。あなたはキスのことを
自慢しますが、この臭いは何でしょう。まさか、糞の山に触って持ち帰ったわけではないでしょうね。私は、誰の厄
介にもならずに暮らしています。そして、冬のことを思って、夏一生懸命働きます。それに対して恥ずべきあなた
の人生は、不正を働いて騙すばかりで、半年もすれば、飢えて死ぬしかないのです」

教訓
  労働と贅沢についての話が象徴的に描かれています。そして全うな暮らしの素晴らしさと、恥ずべき堕落した生活をする者について語られているのです。

Pe521 Pha4.25 Ste37 Cax2.17  エソポ1.16 伊曽保2.28
Laf4.3 Type280A(Formerly249)=TMI.J711.1, J2426.6

日本昔話通観インデックス 495 蝿の足すり
蝿が王様に、雀が王様の米を盗み食いしている、と告げ口をすると、王様は雀を呼びつける。雀は王様に、私は王様の倉の前を掃除しているが、蝿は王様の食事に汚い足で登り王様より先に食う、と反論すると、王様は蝿に、お前こそ詫びろ、と命じる。蝿は前足をすって王様に詫び、うしろ足をすって雀に詫び、以来そういう習性になる。


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