万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 力及えいや川と身をふくらし遣れ八゛思能保可尓皮俄尓破
02 て腹王多出。空成尓遣利其如及ざる才智位を望人八望こ
03 とを得春終尓己可゛思ひ故尓我身を保ろ本゛春こと有也
04 第廿三 王らんべとぬ春人能事
05 或井能そ八゛に童子一人ゐ多利し可゛あ奈多古奈多を詠介る
06 間に盗人一人走来利此童を見天心に思ふ様あ奈う連し
07 此者能いしやうを者ぎとら八゛やと思ひ天近付侍る程耳
08 盗人能悪念越さと川天い登可奈しき気色をあら八して
09 泣々ゐ多利し可゛盗人是を三て何事共知春゛よ能徒年の悲
10 尓八あら春゛いとふしく覚衣て指寄天い可奈ることを可奈しむ
11 ぞといへ者゛童云様何を可加くし申さん心にうき事有多ゞ
12 今黄金能徒るべを持天水をくまんと春る処尓俄尓奈王
【伊曽保下 〇廿六】
13 きれ天井どに落入ぬ千度尋もとむ連共せん可多奈しい
14 可にして可主人能前丹天申べきやと云介れ八゛盗人是を聞て
15 面に八哀尓可奈しきふ利をあら八して撫て云いと安事可奈
16 我そこへ入天引上べ遣れ八゛。汝い多く奈げくべ可ら須゛童是を
17 聞てう連しくて涙をのごひ天頼遣利其時盗人きる物を
18 ぬき置井どの中尓於利天爰彼尋る隙尓童此きる
19 物越取天い川゛ちと毛奈く丹げ去介利盗人やゝひさしく
20 徒るべを尋遣れ共是尓あ者須゛可ゝ類程に上尓あ可゛里し可八゛
21 置多るきる物毛童毛うせ天見衣侍ら春゛其時我と王可゛
22 身尓い可川天独ごと越云様。誠尓道理能上よ利是を天道
23 者可らひ給ふ其故八人能物越ぬ春まんと春るもの八還而
24 ぬ春まるゝ物也と云天あ可者多゛可に天帰り尓遣利其ことく
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 力及えいやつと身をふくらしければ思のほかに皮俄に破
02 て腹わた出。空成にけり其如及ざる才智位を望人は望こ
03 とを得す終に己が思ひ故に我身をほろぼすこと有也
04 第廿三 わらんべとぬす人の事
05 或井のそばに童子一人ゐたりしがあなたこなたを詠ける
06 間に盗人一人走来り此童を見て心に思ふ様あなうれし
07 此者のいしやうをはぎとらばやと思ひて近付侍る程に
08 盗人の悪念をさとつていとかなしき気色をあらはして
09 泣々ゐたりしが盗人是をみて何事共知ずよのつねの悲
10 にはあらずいとふしく覚えて指寄ていかなることをかなしむ
11 ぞといへば童云様何をかかくし申さん心にうき事有たゞ
12 今黄金のつるべを持て水をくまんとする処に俄になわ
【伊曽保下 〇廿六】
13 きれて井どに落入ぬ千度尋もとむれ共せんかたなしい
14 かにしてか主人の前にて申べきやと云ければ盗人是を聞て
15 面には哀にかなしきふりをあらはして[藉]て云いと安事かな
16 我そこへ入て引上べければ。汝いたくなげくべからず童是を
17 聞てうれしくて涙をのごひて頼けり其時盗人きる物を
18 ぬき置井どの中におりて爰彼尋る隙に童此きる
19 物を取ていづちともなくにげ去けり盗人やゝひさしく
20 つるべを尋けれ共是にあはずかゝる程に上にあがりしかば
21 置たるきる物も童もうせて見え侍らず其時我とわが
22 身にいかつて独ごとを云様。誠に道理の上より是を天道
23 はからひ給ふ其故は人の物をぬすまんとするものは還而
24 ぬすまるゝ物也と云てあかはだかにて帰りにけり其ことく
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