万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 い可成ことを毛望申せ。後尓望ん者に八。前能望に一倍をあ多へ
02 んとの多まへ八゛。欲心成者八。何事丹天もあ連。一倍とらんと思ふ尓
03 依天。初尓こひ奉ら春゛。今一人能者八。何事丹天もあ連。人を
04 そ年む者奈る尓依天。我尓満さ利天。彼尓とら連んも祢多万
05 しとや思遣ん。是も初尓こひ奉ら春゛。王れ先せよ。人先せよ
06 といど三。諍程尓。時刻う徒利遣れ八゛。とく/\登綸言奈らせ給
07 程尓。彼祢い人思ふ屋う。古ゝ奈るや川め可゛余尓。欲心深こと農
08 祢多まし遣れ八゛。彼尓あ多を望まんとて。春ゝ三出て申遣る八。然
09 ら八゛我。可多/\能眼をぬき多く侍ると奏し遣れ八゛。安き所望
10 とて可多目をぬ可れ。其如。祢い人と云者八。人能栄ることを三て
11 盤。可奈しむ可本丹天。内心尓八慶物也。され八゛彼者。己れ可゛可多目
12 をぬ可るゝといへ共。両眼をぬ可ん為。先苦を堪忍せんと春る尓や。
【伊曽保下 〇廿五】
13 此祢い人を上覧有て。帝是を憐給ひ。今一人八恙奈くてぞ
14 罷帰る。人尓をし可遣んと思ふ八。先我身能苦と見衣多り。血を含
15 て人耳者け八゛。ま川゛そのくち遣可゛るゝとこそ徒多へ遣れ
16 第廿二 可いるとうしとの事
17 或川の辺尓牛一疋。古ゝ可しこゑじき越もとめ行侍利し尓。
18 蛙是を見天。心に思ふ様。我身をふくらし奈八゛。あ能牛のせい
19 程尓成奈んと思ひ天。き川とのびあ可゛利。身能皮をふくらして。
20 子共にむ可川天。今八此牛能せい程奈里やと尋介れ八゛。子ども
21 あざ笑天云。未其位奈し。者ゞ可利奈可゛ら御辺八牛尓似給八
22 春゛。正敷可ぶらの奈里にこそ見衣侍利遣れ。御可王のちゞ三多
23 累所侍る程に。今少ふく連させ給八ゞ。あ能牛のせい尓成給い
24 奈んと申遣れ八゛。蛙答申さくそれこそや春き事奈れと云て。
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 いか成ことをも望申せ。後に望ん者には。前の望に一倍をあたへ
02 んとのたまへば。欲心成者は。何事にてもあれ。一倍とらんと思ふに
03 依て。初にこひ奉らず。今一人の者は。何事にてもあれ。人を
04 そねむ者なるに依て。我にまさりて。彼にとられんもねたま
05 しとや思けん。是も初にこひ奉らず。われ先せよ。人先せよ
06 といどみ。諍程に。時刻うつりければ。とく/\と綸言ならせ給
07 程に。彼ねい人思ふやう。こゝなるやつめが余に。欲心深ことの
08 ねたましければ。彼にあたを望まんとて。すゝみ出て申けるは。然
09 らば我。かた/\の眼をぬきたく侍ると奏しければ。安き所望
10 とてかた目をぬかれ。其如。ねい人と云者は。人の栄ることをみて
11 は。かなしむかほにて。内心には慶物也。されば彼者。己れがかた目
12 をぬかるゝといへ共。両眼をぬかん為。先苦を堪忍せんとするにや。
【伊曽保下 〇廿五】
13 此ねい人を上覧有て。帝是を憐給ひ。今一人は恙なくてぞ
14 罷帰る。人にをしかけんと思ふは。先我身の苦と見えたり。血を含
15 て人にはけば。まづそのくちけがるゝとこそつたへけれ
16 第廿二 かいるとうしとの事
17 或川の辺に牛一疋。こゝかしこゑじきをもとめ行侍りしに。
18 蛙是を見て。心に思ふ様。我身をふくらしなば。あの牛のせい
19 程に成なんと思ひて。きつとのびあがり。身の皮をふくらして。
20 子共にむかつて。今は此牛のせい程なりやと尋ければ。子ども
21 あざ笑て云。未其位なし。はゞかりながら御辺は牛に似給は
22 ず。正敷かぶらのなりにこそ見え侍りけれ。御かわのちゞみた
23 る所侍る程に。今少ふくれさせ給はゞ。あの牛のせいに成給い
24 なんと申ければ。蛙答申さくそれこそやすき事なれと云て。
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