万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 徒る者八。翁可゛志わざ尓不^異。心軽き者八。常尓志川可成
02 こと奈しと見衣多利。軽々敷人能こと越信じて。み多利尓移
03 こと奈可れ。但よき道尓八幾度もう川里て誤奈し。事毎
04 尓よ遣れ八゛とて。うろん尓見ゆること奈可れ。多し可に徒ゝ志め
05 第丗一 鳥。人尓遣うけを春る事
06 或時片山能辺尓をい天。小鳥をさ須こと有。是をころさん
07 と春る尓。彼鳥さゝへ天申遣る八。い可に御辺。我程の小鳥を
08 ころさせ給へ八゛とて。い可計能こと可候べきや。助給八ゞ三川能こと
09 を。教奉らんと云。さら八゛とて其命越多春く。彼鳥申遣
10 類八。第一尓八。有まじきこと越有べしと思ふこと奈可れ。第二尓八。
11 もとめ可゛多起こと越。もとめ多起と思ふこと奈可れ。第三尓八。去天
12 帰らざること越。くやむことな可連。此三川を能多も多八゛。誤ある
【伊曽保下 〇丗三】
13 遍゛可ら春゛と云を聞て。此鳥を放ぬ。其時鳥。高こ春゛ゑ尓
14 とびあ可利。扨も御辺八愚成人可奈。我腹尓奈らひなき
15 玉越もて里。是を御辺とり給八ゞよに奈らび奈く。栄へ
16 給ふべき丹登笑遣れ八゛。可能人千度後悔して。二度彼鳥
17 をとら八゛やと祢らふ程に。彼鳥申遣る八。い可に御辺。御三に
18 万さ利多る徒多奈き人八候まじ。其故八。只今御辺尓教介る
19 ことを八゛。何と可聞給ふや。第一二有ましきこと越。有へしと思ふ
20 こと奈可れと八。先我腹尓玉有登云八゛。有べきことやい奈や。
21 第二尓八。求可゛多起こと越。求度と思ふこと奈可れと八。我を二
22 度取事有べ可ら春゛。第三尓八。去て帰らぬ事を。くやむこと
23 奈可れと八。我を一度放。可奈者ぬ物故尓祢らふこと。去て帰ぬ
24 を。くやむ尓あら春゛やと。恥しめ尓遣る。其如。人常尓此三川
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 つる者は。翁がしわざに不^異。心軽き者は。常にしつか成
02 ことなしと見えたり。軽々敷人のことを信じて。みたりに移
03 ことなかれ。但よき道には幾度もうつりて誤なし。事毎
04 によければとて。うろんに見ゆることなかれ。たしかにつゝしめ
05 第丗一 鳥。人にけうけをする事
06 或時片山の辺にをいて。小鳥をさすこと有。是をころさん
07 とするに。彼鳥さゝへて申けるは。いかに御辺。我程の小鳥を
08 ころさせ給へばとて。いか計のことか候べきや。助給はゞ三つのこと
09 を。教奉らんと云。さらばとて其命をたすく。彼鳥申け
10 るは。第一には。有まじきことを有べしと思ふことなかれ。第二には。
11 もとめがたきことを。もとめたきと思ふことなかれ。第三には。去て
12 帰らざることを。くやむことなかれ。此三つを能たもたば。誤ある
【伊曽保下 〇丗三】
13 べからずと云を聞て。此鳥を放ぬ。其時鳥。高こずゑに
14 とびあかり。扨も御辺は愚成人かな。我腹にならひなき
15 玉をもてり。是を御辺とり給はゞよにならびなく。栄へ
16 給ふべきにと笑ければ。かの人千度後悔して。二度彼鳥
17 をとらばやとねらふ程に。彼鳥申けるは。いかに御辺。御みに
18 まさりたるつたなき人は候まじ。其故は。只今御辺に教ける
19 ことをば。何とか聞給ふや。第一に有ましきことを。有へしと思ふ
20 ことなかれとは。先我腹に玉有と云ば。有べきことやいなや。
21 第二には。求がたきことを。求度と思ふことなかれとは。我を二
22 度取事有べからず。第三には。去て帰らぬ事を。くやむこと
23 なかれとは。我を一度放。かなはぬ物故にねらふこと。去て帰ぬ
24 を。くやむにあらずやと。恥しめにける。其如。人常に此三つ
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