万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 者ぞ登尋遣連ば。志やん{と}も商人毛。あま利尓いそ本可゛
02 見丹くきこと越者ぢて。志ら春゛登答ふ。いそ本此よしを
03 承り。あ奈う連し能事や。王れ尓ぬし奈しといひ天。いさ三あへ
04 累。其時志やん{と}毛商人毛。是八我志よ志゛う丹天候と宣。それ
05 より志やんと。いそ本をめしつ連。我本へ可へり多まひ介利
06 第二 荷物をも川事
07 ある時志やんと。旅尓於もむ可せ給ふ尓。下人共゛に荷物を宛
08 をこ奈ふ。王れも/\登。可ろき荷物をあらそひ取天是を
09 持。古ゝに食物をいれ多る物有遣り。その於もき尓おそれ天。
10 是をも川人奈し。さら八゛とて。いそ本ぢ春るにをよ八゛須゛。何
11 事も殿能御奉公奈ら八゛とて。是をも川。其日能重荷。い
12 そ保尓春ぎ多る者奈しと。皆人いひ遣利。日数遍て行
【伊曽保上 〇四】
13 程尓。此食物を常尓用ゆ。可る可゛ゆへ尓日尓そへ天可ろく成
14 遣利。者て尓八い登可ろき丹毛{つ}持遣利。あ川八連可しこき 15 古ゝ路あ天可那と天。そ年三多まふ人々あり遣り
16 第三 柿をときやく春類事
17 或時。志やんとのもとへ。柿を送人有遣利。彼志よ志゛う等。此柿
18 喰徒くして。いそ本可゛ふし多り遣類。ふ登ころ尓一川二川
19 をしい連天。可れ尓奈ん於本せ遣る。屋ゝあ川天後。志やんと。
20 彼柿をこひい多゛さる。各志ら春゛登こ多ふ。志やんとあやし三
21 尋遣連八゛。各ひと川口尓申遣る八。其柿八。いそ本こそ志り
22 侍らめ登云。さら八゛とていそ本を召い多゛し尋給ふ尓。案能ご
23 とく懐尓柿有。あ者やと是をきうめい春る尓。いそ本申
24 遣る八。ざいく王の可゛連可゛多く候。志可れ共それ可゛し申さんことを。
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万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 者ぞと尋ければ。しやん{と}も商人も。あまりにいそほが
02 みにくきことをはぢて。しらずと答ふ。いそほ此よしを
03 承り。あなうれしの事や。われにぬしなしといひて。いさみあへ
04 る。其時しやん{と}も商人も。是は我しよじうにて候と宣。それ
05 よりしやんと。いそほをめしつれ。我本へかへりたまひけり
06 第二 荷物をもつ事
07 ある時しやんと。旅におもむかせ給ふに。下人共゛に荷物を宛
08 をこなふ。われも/\と。かろき荷物をあらそひ取て是を
09 持。こゝに食物をいれたる物有けり。そのおもきにおそれて。
10 是をもつ人なし。さらばとて。いそほぢするにをよばず。何
11 事も殿の御奉公ならばとて。是をもつ。其日の重荷。い
12 そほにすぎたる者なしと。皆人いひけり。日数へて行
【伊曽保上 〇四】
13 程に。此食物を常に用ゆ。かるがゆへに日にそへてかろく成
14 けり。はてにはいとかろきにも{つ}持けり。あつはれかしこき
15 こゝろあてかなとて。そねみたまふ人々ありけり
16 第三 柿をときやくする事
17 或時。しやんとのもとへ。柿を送人有けり。彼しよじう等。此柿
18 喰つくして。いそほがふしたりける。ふところに一つ二つ
19 をしいれて。かれになんおほせける。やゝあつて後。しやんと。
20 彼柿をこひいださる。各しらずとこたふ。しやんとあやしみ
21 尋ければ。各ひとつ口に申けるは。其柿は。いそほこそしり
22 侍らめと云。さらばとていそほを召いだし尋給ふに。案のご
23 とく懐に柿有。あはやと是をきうめいするに。いそほ申
24 けるは。ざいくわのがれがたく候。しかれ共それがし申さんことを。
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