万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 事ぞ登有遣連八゛。いそ本答云。暫世間能悪事を案候
02 尓。是和さ王ひ能もと也。三寸能舌のさへ徒゛りを以天。五尺能
03 身を損候も。み奈舌ゆへ能志和ざ丹天候八須゛やと申尓。志や
04 んと里やう志゛やうして。二能返事を多川と三給ふ奈り
05 第六 風呂能事
06 或時志やんと。いそ本尓仰遣る八。風呂八ひろきや。見天
07 参れと有遣連八゛。畏天罷出。其道尓於ゐ天。或人いそ本
08 尓行逢。何国よりい川゛可多へ行ぞと問遣連八。志ら須゛と答。
09 彼人い可川天云。きく王い也。いそ本。人能問尓。さる返事春る者
10 や有とて。い満しめんとぎせら連介れ八゛。いそ本答云。され八゛こそ
11 さやう尓人尓い満しめら連んこと越。志らざること丹天侍る可と
12 申遣連八゛。古さん奈連とてゆるされ介る。其門能可多八ら尓。出入
【伊曽保上 〇八 九】
13 尓さ八り春る石有。此石丹天。あま多足をくじき。或八うち
14 さくを。人是を三て。あやし能石やとて。是をのぞく。いそ本
15 是を三て。志やんとに申遣る。風呂尓八人一人丹天候と見衣
16 侍ると申遣連八゛。さら八゛とて。志やんと風呂尓いら累。然処尓
17 風呂尓入介る人。いくらと毛数を志ら春゛。志やんといそ本を召
18 て仰遣る八。汝何能ゆへを以天可。風呂尓八人一人といひ介るぞと
19 問給へ八゛。いそ本答云。先尓風呂の門尓。出入尓さ八り春る石有
20 遣り。人あま多是尓奈やまさるゝといへど毛。是をのぞく。それ
21 よりして出入平安尓候間。人一人と申候と答遣る奈り
22 第七 志やんとうし本をのまんと遣いやく能事
23 或時志やんと。酒尓酔遣るうち尓。古ゝ可しこさ満よふ所尓。或
24 人志やんと越さゝへ天い者く。御辺八大海能うし本を。の三つくし
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万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 事ぞと有ければ。いそほ答云。暫世間の悪事を案候
02 に。是わさわひのもと也。三寸の舌のさへづりを以て。五尺の
03 身を損候も。みな舌ゆへのしわざにて候はずやと申に。しや
04 んとりやうじやうして。二の返事をたつとみ給ふなり
05 第六 風呂の事
06 或時しやんと。いそほに仰けるは。風呂はひろきや。見て
07 参れと有ければ。畏て罷出。其道におゐて。或人いそほ
08 に行逢。何国よりいづかたへ行ぞと問けれは。しらずと答。
09 彼人いかつて云。きくわい也。いそほ。人の問に。さる返事する者
10 や有とて。いましめんとぎせられければ。いそほ答云。さればこそ
11 さやうに人にいましめられんことを。しらざることにて侍るかと
12 申ければ。こさんなれとてゆるされける。其門のかたはらに。出入
【伊曽保上 〇八 九】
13 にさはりする石有。此石にて。あまた足をくじき。或はうち
14 さくを。人是をみて。あやしの石やとて。是をのぞく。いそほ
15 是をみて。しやんとに申ける。風呂には人一人にて候と見え
16 侍ると申ければ。さらばとて。しやんと風呂にいらる。然処に
17 風呂に入ける人。いくらとも数をしらず。しやんといそほを召
18 て仰けるは。汝何のゆへを以てか。風呂には人一人といひけるぞと
19 問給へば。いそほ答云。先に風呂の門に。出入にさはりする石有
20 けり。人あまた是になやまさるゝといへども。是をのぞく。それ
21 よりして出入平安に候間。人一人と申候と答けるなり
22 第七 しやんとうしほをのまんとけいやくの事
23 或時しやんと。酒に酔けるうちに。こゝかしこさまよふ所に。或
24 人しやんとをさゝへていはく。御辺は大海のうしほを。のみつくし
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