万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 を見るに。多ゞ雨露能めぐ三越以天。生長春ること奈し。此
02 い者れい可にととふ。志やんと答云。多ゞ是天道能めぐ三奈り
03 との多まふ。其時いそ本あざ笑天云。さやう能御こ多へ八。余利
04 愚尓候と申遣れ八゛。さら八゛とて志やんと立帰り後。のう人尓告
05 多万八く。先尓こ多ふる所其理尓あ多ら春゛。我めしぐし侍累
06 者尓。古多へさ須遍しと仰遣連八゛。のう人彼いそ本可゛す可゛多
07 を三て。仰丹天八候へ共。可ゝ類あやし能者の。い可程能事を可
08 答候べきと申遣連八゛。いそ本聞て。い可ゞ汝可゛いふ処。道理耳
09 も連多利。古多ふる処者川゛連春゛八。奈んぞ姿能み丹くき尓
10 よらんや。され八゛先にとふ処。甚以天和きまへ屋ら春゛。汝継子
11 と実子を志るやい奈や。それ人間能習として。実子を八是を
12 愛し。継子を八゛是をうとん春゛。其古゛とく志多い能中尓生類。
【伊曽保上 〇六七】
13 志多い可多め尓継子也。人能継子を以天。志多い可親疎を弁也
14 第五 け多ものゝ志多能事
15 ある時志やんと。客来能みぎり。いそ本尓仰て。汝世中耳
16 めづらしき物を。もとめ来連とあり遣連八゛。いそ本。遣多゛ものゝ
17 舌をの三調侍り遣類。志やんと是を三て。世間能めづらしき物
18 尓。介多゛ものゝ舌をもとむる事。何事ぞと仰遣連八゛。いそ本
19 答云。それ世中能有様を見るに。舌三寸能さへ徒゛りを以天。
20 遣んせ八あんをん丹して。後生せん志よ尓い多り候も。皆舌頭農
21 和ざ奈り。され八゛諸丹く能中尓おゐ天。舌八いちめづらしき物
22 尓あら春゛やと申。又有時。世間第一能悪物を。もとめ来れと
23 有遣れ八゛。いそ本又。介多゛ものゝ舌をとゝのふ。志やんと是を見天。
24 是八世間第一。めづらしき物丹天こそあ連。あしき物と八奈に
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万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 を見るに。たゞ雨露のめぐみを以て。生長することなし。此
02 いはれいかにととふ。しやんと答云。たゞ是天道のめぐみなり
03 とのたまふ。其時いそほあざ笑て云。さやうの御こたへは。余り
04 愚に候と申ければ。さらばとてしやんと立帰り後。のう人に告
05 たまはく。先にこたふる所其理にあたらず。我めしぐし侍る
06 者に。こたへさすへしと仰ければ。のう人彼いそほがすがた
07 をみて。仰にては候へとも。かゝるあやしの者の。いか程の事をか
08 答候べきと申ければ。いそほ聞て。いかゞ汝がいふ処。道理に
09 もれたり。こたふる処はづれずは。なんぞ姿のみにくきに
10 よらんや。されば先にとふ処。甚以てわきまへやらず。汝継子
11 と実子をしるやいなや。それ人間の習として。実子をは是を
12 愛し。継子をば是をうとんず。其ごとくしたいの中に生る。
【伊曽保上 〇六七】
13 したいかために継子也。人の継子を以て。したいか親疎を弁也
14 第五 けたものゝしたの事
15 ある時しやんと。客来のみぎり。いそほに仰て。汝世中に
16 めづらしき物を。もとめ来れとありければ。いそほ。けだものゝ
17 舌をのみ調侍りける。しやんと是をみて。世間のめづらしき物
18 に。けだものゝ舌をもとむる事。何事ぞと仰ければ。いそほ
19 答云。それ世中の有様を見るに。舌三寸のさへづりを以て。
20 けんせはあんをんにして。後生せんしよにいたり候も。皆舌頭の
21 わざなり。されば諸にくの中におゐて。舌はいちめづらしき物
22 にあらずやと申。又有時。世間第一の悪物を。もとめ来れと
23 有ければ。いそほ又。けだものゝ舌をとゝのふ。しやんと是を見て。
24 是は世間第一。めづらしき物にてこそあれ。あしき物とはなに
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