万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 屋ゝあ川天後。いそ本いひ遣る八。我八是志やんとの下臈奈り。
02 人々めし徒可八るゝ者能習とて。其主能前尓おゐ天物云[事]。
03 春三や可奈ら春゛登いひ遣れ八゛。人々実もと合点して。志や
04 んとにむ可ひ天申され遣る八。いそ本申所道理至極也。此上
05 盤。ふ多゛い能処をゆるし給ひ。其子細をい者せ給へ可しと申
06 され遣連八゛。志やんと少もふくようせ須゛。守護人此由を聞て。
07 おし三給ふ所毛こと八り奈連共。此子細をき可ん尓おゐ天八。
08 何事を可本う春゛べきや。もし人奈く八。可八りをこそ参須べ気
09 連登いひ遣れ者゛。志やんと惜む尓及八゛須゛。里やうぢやうせ
10 らる。さ類尓よ川天。群集能中尓おゐ天。今よ利以後。
11 いそ本八我ふ多゛い尓あら春゛登申され遣連八゛。いそ本重而
12 申遣る八。此頃心ちあしき事有て。声高く出し給ふ遍゛
【伊曽保上 〇十六】
13 可ら須゛。声よき人尓仰天ふ多゛い能所越赦免と。高く
14 よ者゛八らせ給へと望遣連八゛。いそ本可゛云ごとく。よ者゛八り遣る。
15 屋ゝ有ていそ本。高座能上よ利いひ遣る八。鷲。守護農
16 ゆひ可年をう者゛ひ候事。鷲八諸鳥能王多利。守護八王尓勝
17 こと奈し。い可様丹毛他国能王よ利。此国能守護を。志ん多゛いせ
18 させ多まふ遍きやといひ遣類
19 第十 里いひやよ里ちよくし能事
20 さる程尓いそ本可゛申せしことく。里いひや能国王。介れそ登
21 申帝よ利。さん尓勅使を立給ふ。其所よ利。年毎尓御調
22 物を奉るべし。然ら春゛八武士尓仰て。責保ろ本゛させ給ふべし
23 との勅諚也。これ尓依天。地下能年寄以下。評定志給ひ
24 ける八。其責を可うふらんよ利八。志可し御調物を奉るべしと也。 |
万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 やゝあつて後。いそほいひけるは。我は是しやんとの下臈なり。
02 人々めしつかはるゝ者の習とて。其主の前におゐて物云[事]。
03 すみやかならずといひければ。人々実もと合点して。しや
04 んとにむかひて申されけるは。いそほ申所道理至極也。此上
05 は。ふだいの処をゆるし給ひ。其子細をいはせ給へかしと申
06 されければ。しやんと少もふくようせず。守護人此由を聞て。
07 おしみ給ふ所もことはりなれ共。此子細をきかんにおゐては。
08 何事をかほうずべきや。もし人なくは。かはりをこそ参すべけ
09 れといひければ。しやんと惜むに及ばず。りやうぢやうせ
10 らる。さるによつて。群集の中におゐて。今より以後。
11 いそほは我ふだいにあらずと申されければ。いそほ重而
12 申けるは。此頃心ちあしき事有て。声高く出し給ふべ
【伊曽保上 〇十六】
13 からず。声よき人に仰てふだいの所を赦免と。高く
14 よばはらせ給へと望ければ。いそほが云ごとく。よばはりける。
15 やゝ有ていそほ。高座の上よりいひけるは。鷲。守護の
16 ゆひかねをうばひ候事。鷲は諸鳥の王たり。守護は王に勝
17 ことなし。いか様にも他国の王より。此国の守護を。しんだいせ
18 させたまふへきやといひける
19 第十 りいひやよりちよくしの事
20 さる程にいそほが申せしことく。りいひやの国王。けれそと
21 申帝より。さんに勅使を立給ふ。其所より。年毎に御調
22 物を奉るべし。然らずは武士に仰て。責ほろぼさせ給ふべし
23 との勅諚也。これに依て。地下の年寄以下。評定し給ひ
24 けるは。其責をかうふらんよりは。しかし御調物を奉るべしと也。 |