万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 さ利奈可゛ら。いそ本尓尋よとて。此由を可多り遣れ八゛。いそ本申
02 ける八。それ人能習。望越自由尓を可ん毛。人尓志多可゛八ん毛。
03 多多゛其望尓任春る物也と云遣連八。実もとて勅諚を背
04 可須゛。勅使帰天此よしをそうもん春。み可登゛其ゆへをと八せ多
05 まふ尓。勅使申遣る八。彼所にいそ本と云者有。才智世に
06 春ぐれ。思案人尓古え多利。此所を志多可゛へん尓おゐ天八。まづ
07 此者をめしを可るべしと申遣連八゛。尤と叡感あ川天。可さ年天
08 さん尓勅使を下さ類。御調物を八゛ゆるし給ふべし。いそ本を
09 み可登゛へ参らせよとの勅諚也。地下能人々訴訟して云。さら八゛
10 いそ本を参らせんと也。いそ本此よしを聞天。多とへを以天云
11 遣類八。昔狼。一川能羊を服せんと須。ひ川じ此由を覚天。
12 あま多能犬を引可多らふ。是尓狼。羊をお可須事奈し。狼能略
【伊曽保上 〇十七】
13 尓。い万よ利して羊をお可須事有べ可ら須。犬を王れ尓与よと云。
14 羊さら八゛とて。犬を狼尓つ可八須。狼先此犬を亡して後。終尓
15 羊を喰て遣り。其国能王を。本ろ保゛さんとて八。先忠臣を招
16 物也と云て。終尓勅使尓ぐせら連天。里いひや能国に到ぬ
17 第十一 伊曽保里いひや能国尓ゆく事
18 さる程尓いそ本。里いひや能国に罷上利。勅使と共尓参内
19 春。み可登゛此よしえいらん有天。あやし能者乃多い者いや奈。可ゝ
20 累見丹くき者能下知によ川天。さん能者共。我命を背ける
21 やと。介゛き里ん有事軽可ら須゛。既尓いそ本可゛一命毛。あやうく
22 見衣侍り遣れ八゛。いそ本えい里よを察して言上し遣る八。我
23 尓片時能いと満を多へと申遣連八゛。暫とて御由るしを蒙る。その
24 時いそ本申ける八。或人い奈古越取天。殺さんとてゆき介るに。
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 さりながら。いそほに尋よとて。此由をかたりければ。いそほ申
02 けるは。それ人の習。望を自由にをかんも。人にしたがはんも。
03 ただ其望に任する物也と云けれは。実もとて勅諚を背
04 かず。勅使帰て此よしをそうもんす。みかど其ゆへをとはせた
05 まふに。勅使申けるは。彼所にいそほと云者有。才智世に
06 すぐれ。思案人にこえたり。此所をしたがへんにおゐては。まづ
07 此者をめしをかるべしと申ければ。尤と叡感あつて。かさねて
08 さんに勅使を下さる。御調物をばゆるし給ふべし。いそほを
09 みかどへ参らせよとの勅諚也。地下の人々訴訟して云。さらば
10 いそほを参らせんと也。いそほ此よしを聞て。たとへを以て云
11 けるは。昔狼。一つの羊を服せんとす。ひつじ此由を覚て。
12 あまたの犬を引かたらふ。是に狼。羊をおかす事なし。狼の略
【伊曽保上 〇十七】
13 に。いまよりして羊をおかす事有べからす。犬をわれに与よと云。
14 羊さらばとて。犬を狼につかはす。狼先此犬を亡して後。終に
15 羊を喰てけり。其国の王を。ほろぼさんとては。先忠臣を招
16 物也と云て。終に勅使にぐせられて。りいひやの国に到ぬ
17 第十一 伊曽保りいひやの国にゆく事
18 さる程にいそほ。りいひやの国に罷上り。勅使と共に参内
19 す。みかど此よしえいらん有て。あやしの者のたいはいやな。かゝ
20 るみにくき者の下知によつて。さんの者共。我命を背ける
21 やと。げきりん有事軽からず。既にいそほが一命も。あやうく
22 見え侍りければ。いそほえいりよを察して言上しけるは。我
23 に片時のいとまをたへと申ければ。暫とて御ゆるしを蒙る。その
24 時いそほ申けるは。或人いなこを取て。殺さんとてゆきけるに。
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