万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 我貧窮能身として。汝等をやし奈ふ遍゛き宝奈し。天道是
02 をせうらん有て。給へるやと喜ぶこと可ぎり奈し。然といへど毛。此
03 札の面越聞て云やう。其主春で尓分明也。道理をまげん{も}石
04 流奈れ八゛。此銀を主へ返し。三分一を得天ましといひ。彼主可゛本
05 へ行天。其有様を語処尓。主俄尓欲念おこ利天。本うび
06 能可年を難渋せしめん可゛多め。我可年春で尓四貫目也。持来れ
07 累処八三貫目也。其まゝ置。汝八罷帰連と云。彼者う連へ
08 て云。我正直をあら八須といへど毛。御辺八無理をの多まふ也。
09 詮春゛る所守護尓出天。理非を決多゛んせんと云。去耳依
10 て二人奈可゛ら。糺明能庭尓罷出る。彼と是と諍処。決
11 可゛多し。彼主せい多んを以天。四貫目と云。彼者八三貫目有
12 と云。奉行も理非を決し可年ける越。いそ本聞て云。本主
【伊曽保上 〇二十】
13 能云所明白也。志可の三奈ら須゛せい多ん有。真実是尓過へ可ら
14 春゛。然ら八゛此可年八彼主の丹天八有べ可ら春゛。其故八落所農
15 銀八四貫目奈り。拾ひ多る所八三貫目奈り。拾多る者尓是
16 を給八川天帰連との給へ八゛。其時本主驚き。い万八何を可
17 つゝ三申べき。此可年既尓我可年也。保うび能所を難渋せしめん
18 可゛多め尓。私曲を構申也。哀三分一を可れ尓あ多へ。残里を我
19 尓多べ可しと云。其時いそ本笑天云。汝可゛欲念猥。い万より以
20 後八停止せしめよ登て。さら八゛汝尓徒可八須とて。三分ニを八゛主
21 尓返し。三分一を拾手尓あ多ふ。其時ふくろを開三れ八゛日記春
22 奈八ち三貫目也前代未聞の介ん多゛ん也と人々感じ給介り
23 第十四 中間とさふらひと馬をあらそふ事
24 或中間。主人能馬に乗天。者る可のよそへ赴く所に。侍一人行
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 我貧窮の身として。汝等をやしなふべき宝なし。天道是
02 をせうらん有て。給へるやと喜ぶことかぎりなし。然といへども。此
03 札の面を聞て云やう。其主すでに分明也。道理をまげん{も}石
04 流なれば。此銀を主へ返し。三分一を得てましといひ。彼主が本
05 へ行て。其有様を語処に。主俄に欲念おこりて。ほうび
06 のかねを難渋せしめんがため。我かねすでに四貫目なり。持来れ
07 る処は三貫目也。其まゝ置。汝は罷帰れと云。彼者うれへ
08 て云。我正直をあらはすといへども。御辺は無理をのたまふ也。
09 詮ずる所守護に出て。理非を決だんせんと云。去に依
10 て二人ながら。糺明の庭に罷出る。彼と是と諍処。決
11 がたし。彼主せいたんを以て。四貫目と云。彼者は三貫目有
12 と云。奉行も理非を決しかねけるを。いそほ聞て云。本主
【伊曽保上 〇二十】
13 の云所明白也。しかのみならずせいたん有。真実是に過へから
14 ず。然らば此かねは彼主のにては有べからず。其故は落所の
15 銀は四貫目なり。拾ひたる所は三貫目なり。拾たる者に是
16 を給はつて帰れとの給へば。其時本主驚き。いまは何をか
17 つゝみ申べき。此かね既に我かね也。ほうびの所を難渋せしめん
18 がために。私曲を構申也。哀三分一をかれにあたへ。残りを我
19 にたべかしと云。其時いそほ笑て云。汝が欲念猥。いまより以
20 後は停止せしめよとて。さらば汝につかはすとて。三分ニをば主
21 に返し。三分一を拾手にあたふ。其時ふくろを開みれば日記す
22 なはち三貫目也前代未聞のけんだん也と人々感じ給けり
23 第十四 中間とさふらひと馬をあらそふ事
24 或中間。主人の馬に乗て。はるかのよそへ赴く所に。侍一人行
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