万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 そ可に云。彼侍を糺明せん時。汝あ者てゝ物云事奈可れとい万
02 しめら類。中間謹而畏る。時尓いそ本能者可りことに。う八き
03 をぬひ天゛。彼馬の徒ら尓奈げ可け。侍尓問ける八。此馬乃眼。
04 い川゛連可徒ぶ連けるぞと問。侍返事尓絶可年天。思案春る
05 こと千万也。思ひ詫天。左能目こそ徒ぶ連多ると申。其時上着
06 を引のけ天三れ八゛。両眼寔尓明可也。是尓依天馬を中間
07 尓あ多へ。可の侍を八゛者ぢしめて。時能ぜひを王けら連遣利
08 第十五 長者登。他古くの商人能事
09 去程尓。さんと云所尓。奈らび奈き長者有。外尓八正直越
10 あら八須といへ共。内心既尓可んきよく也。或時可多ゐ奈可能商人。
11 銀子十貫目持来て。此長者を多の三ける八。我此所よ里。
12 えし徒尓い多り怒。遠路能財宝あやう遣連八゛。預奉らんと云。
【伊曽保上 〇廿三】
13 長者や春く預りける。此商人えし津より帰天。可年を古ふ。
14 長者あら可゛ひ天云。我汝可゛銀を預る事奈し。証跡有やと
15 問。商人い可んと申事奈くして。いそ本能本へ行て。此由を歎
16 遣連八゛。いそ本教天云。其人八此所尓て。保ま連有長者也。証
17 拠奈介れ八゛糺明志可゛多し。汝尓計略ををしへん。其ごとく志給へ
18 と教け連八゛。商人謹而承る。其計略尓云。一尺四寸能箱一川
19 拵。上を八゛う川くしく作可ざ利天。中尓八石を多入天。汝可゛国の
20 人に持せ天。是を玉ぞ登い川八りて。彼長者能もとへ預させ
21 よ。其時尓臨天゛。汝可゛可年を古へ。玉を預らん可゛多め尓。銀を八゛汝尓
22 返春べしと云。商人是を構天。いそ本能教の古とく。同国能者尓
23 持せ。彼長者能所へ行天。是を預る。其時あん能ごとく。玉を預ら
24 ん可゛為尓。商人尓云やう。い可奈連八゛御辺八。可年を八゛取給八怒ぞ。是
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 そかに云。彼侍を糺明せん時。汝あはてゝ物云事なかれといま
02 しめらる。中間謹而畏る。時にいそほのはかりことに。うはき
03 をぬひで。彼馬のつらになげかけ。侍に問けるは。此馬の眼。
04 いづれかつぶれけるぞと問。侍返事に絶かねて。思案する
05 こと千万也。思ひ詫て。左の目こそつぶれたると申。其時上着
06 を引のけてみれば。両眼寔に明か也。是に依て馬を中間
07 にあたへ。かの侍をばはぢしめて。時のぜひをわけられけり
08 第十五 長者と。他こくの商人の事
09 去程に。さんと云所に。ならびなき長者有。外には正直を
10 あらはすといへ共。内心既にかんきよく也。或時かたゐなかの商人。
11 銀子十貫目持来て。此長者をたのみけるは。我此所より。
12 えしつにいたりぬ。遠路の財宝あやうければ。預奉らんと云。
【伊曽保上 〇廿三】
13 長者やすく預りける。此商人えしつより帰て。かねをこふ。
14 長者あらがひて云。我汝が銀を預る事なし。証跡有やと
15 問。商人いかんと申事ななくして。いそほの本へ行て。此由を歎
16 ければ。いそほ教て云。其人は此所にて。ほまれ有長者也。証
17 拠なければ糺明しがたし。汝に計略ををしへん。其ごとくし給へ
18 と教ければ。商人謹而承る。其計略に云。一尺四寸の箱一つ
19 拵。上をばうつくしく作かざりて。中には石を多入て。汝が国の
20 人に持せて。是を玉ぞといつはりて。彼長者のもとへ預させ
21 よ。其時に臨で。汝がかねをこへ。玉を預らんがために。銀をば汝に
22 返すべしと云。商人是を構て。いそほの教のことく。同国の者に
23 持せ。彼長者の所へ行て。是を預る。其時あんのごとく。玉を預ら
24 んが為に。商人に云やう。いかなれば御辺は。かねをば取給はぬぞ。是
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