万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 こそおことの可年ぞとて。本能可年を与へ天遣゛り。其ゆへ八。此箱の
02 内能名珠。十貫目能奈ん里やうよ里。そく者゛く満さるべし
03 と{。}於もふ尓よ川天奈り。春奈八ち箱一川あ川゛遣天。可年をと利
04 て帰介り。あ川八れ可し古きをしへ可奈とて。保めぬ人社奈可り遣り
05 第十六 いそ保二人能さふらひゆめ物可゛多り能事
06 或時さんと云所能侍。二人いそ本を誘引して。夏能あつさを凌
07 可゛ん為。涼しき所をもとめて到り怒。其所につゐ天。三人定て云。
08 爰によきさ可奈一種有。む奈しく喰んもさ須可゛奈れ八゛。暫この
09 臺尓万どろ三て。よき夢見多らん者。此肴を喰んと也去尓
10 依天三人同枕尓臥遣り。二人能侍八。前後も知春゛祢いり
11 け連八゛。いそ本少も万どろま須゛。或春き間越う可ゞひて。ひ
12 そ可におきあ可゛り。此肴を喰徒くして。又同ごとく尓まどろ三
【伊曽保上 〇廿四】
13 遣り。暫有天後。独能侍おきあ可゛り。今一人を於こして云。某
14 既尓夢を可うふる。其故八。天人二体あ万く多゛らせ給ひ。王れ
15 を召ぐして。あ万能遣らく越可うふると見しと云。今一人可いふ
16 様。我夢甚これ尓こと也。天朝ニ体王れを可い志やくして。ゐんへ
17 累野へい多りぬと見る。其時両人せんぎして。彼いそ本を於こ
18 し遣れば。祢いら怒いそ本可゛。夢能覚多る心ちして。驚介し
19 きに申やう。御辺八い可にして可。此所に来り給ふぞ。さも婦しん
20 也と申遣連八゛。両人能侍あざ笑天云。いそ本八何事をの給ふ
21 ぞ。我此所をさる事奈し。御辺と共尓万どろ三遣り。我夢
22 八定りぬ。御辺能夢八い可にと問。いそ本答云。御辺八天尓到
23 給ひぬ。い万一人八ゐんへる野へ落怒。二人奈可゛ら此界尓来る
24 事有べ可ら春゛。然ら八゛肴を置天何可八せんと思ひ天。某可゛
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 こそおことのかねぞとて。本のかねを与へてげり。其ゆへは。此箱の
02 内の名珠。十貫目のなんりやうより。そくばくまさるべし
03 と{。}おもふによつてなり。すなはち箱一つあづけて。かねをとり
04 て帰けり。あつはれかしこきをしへかなとて。ほめぬ人社なかりけり
05 第十六 いそほ二人のさふらひゆめ物がたりの事
06 或時さんと云所の侍。二人いそほを誘引して。夏のあつさを凌
07 がん為。涼しき所をもとめて至りぬ。其所につゐて。三人定て云。
08 爰によきさかな一種有。むなしく喰んもさすがなれば。暫この
09 臺にまどろみて。よき夢見たらん者。此肴を喰んと也去に
10 依て三人同枕に臥けり。二人の侍は。前後も知ずねいり
11 ければ。いそほ少もまどろまず。或すき間をうかゞひて。ひ
12 そかにおきあがり。此肴を喰つくして。又同ごとくにまどろみ
【伊曽保上 〇廿四】
13 けり。暫有て後。独の侍おきあがり。今一人をおこして云。某
14 既に夢をかうふる。其故は。天人二体あまくだらせ給ひ。われ
15 を召ぐして。あまのけらくをかうふると見しと云。今一人かいふ
16 様。我夢甚これにこと也。天朝ニ体われをかいしやくして。ゐんへ
17 る野へいたりぬと見る。其時両人せんぎして。彼いそほをおこ
18 しければ。ねいらぬいそほが。夢の覚たる心ちして。驚けし
19 きに申やう。御辺はいかにしてか。此所に来り給ふぞ。さもふしん
20 也と申ければ。両人の侍あざ笑て云。いそほは何事をの給ふ
21 ぞ。我此所をさる事なし。御辺と共にまどろみけり。我夢
22 は定りぬ。御辺の夢はいかにと問。いそほ答云。御辺は天に至
23 給ひぬ。いま一人はゐんへる野へ落ぬ。二人ながら此界に来る
24 事有べからず。然らば肴を置て何かはせんと思ひて。某が
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