万治版 伊曽保物語 変体仮名
図10
【伊曽保中 〇丗四】
01 む可し正直奈る人。そらごとの三いふ人と有遣利。此二人。猿農
02 有所に行遣利。然るに或木能もとに。猿共数多奈三居る中
03 尓。秀各うやまふ猿有。彼うそ徒く人。猿能そ八゛に近付て。例
04 能うそを申遣る八。是尓遣多可く見衣させ給ふ八。ましら王丹天
05 わ多らせ給ふ可。其外面々見衣させ給ふ八。月卿雲客丹て王多
06 らせ給ふ可。あ奈い三じき有様とぞ保め遣る。ましら此由を
07 聞て。丹くき人能保めやう可奈。是こそ誠能帝王丹天於八し
08 ませとて。引出物奈とし遣る。然る越彼正直奈る者思ふやう。
09 是八うそを云に多゛尓。引出物出し多利遣れ八゛。実をい者ん尓何し
10 尓可八得ざらんとて。彼猿能辺尓行天申遣る八。面々の中尓
11 年多けよ八ひ於とろへ天。くびの者げ多る毛有。盛丹してよく物
12 ま年春るべくも有奈んとぞ。有のまゝ尓申遣れ八゛。ましら大きに
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
図10
【伊曽保中 〇丗四】
01 むかし正直なる人。そらごとのみいふ人と有けり。此二人。猿の
02 有所に行けり。然るに或木のもとに。猿共数多なみ居る中
03 に。秀各うやまふ猿有。彼うそつく人。猿のそばに近付て。例
04 のうそを申けるは。是にけたかく見えさせ給ふは。ましら王にて
05 わたらせ給ふか。其外面々見えさせ給ふは。月卿雲客にてわた
06 らせ給ふか。あないみじき有様とぞほめける。ましら此由を
07 聞て。にくき人のほめやうかな。是こそ誠の帝王にておはし
08 ませとて。引出物なとしける。然るを彼正直なる者思ふやう。
09 是はうそを云にだに。引出物出したりければ。実をいはんに何し
10 にかは得ざらんとて。彼猿の辺に行て申けるは。面々の中に
11 年たけよはひおとろへて。くびのはげたるも有。盛にしてよく物
12 まねするべくも有なんとぞ。有のまゝに申ければ。ましら大きに
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