万治版 伊曽保物語 変体仮名
図11
【伊曽保下 〇五六】
01 河能辺を。馬に乗天通人有遣利。其傍尓多川と云物。水尓
02 離天迷惑春る事有遣利。此龍今能人を三て申遣る盤。
03 我今水尓者奈連天せん可多奈し。哀三を多れ給ひ。其馬尓
04 乗天水有所へ付させ給八ゞ。其返報として。金銭を奉らんと
05 云。彼人誠と心得天。馬に乗天水上へをく類。そこ丹天屋く
06 そく能金銭を。くれよ登いへ八゛。龍い可川天云。何能金銭を可参ら
07 春べき。我を馬にくゝ里付天。い多め給ふ多゛に有に。金銭とゝ八
08 何事ぞとあらそふ処尓。狐者せ来天。扨も多川殿八何ごと
09 を諍ぞ登云尓。龍右能[赴]奈ん云遣れ者゛。狐申遣る八。我此
10 公事を決春べし。先尓くゝ里付多る様八。何と可志徒るぞと
11 云尓。多川申遣る八。可くのごとしとて又馬に乗程尓。狐。人尓申
12 遣る八。い可程可志め付らるぞ登云程尓。是程とて志め遣れ者゛。
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
図11
【伊曽保下 〇五六】
01 河の辺を。馬に乗て通人有けり。其傍にたつと云物。水に
02 離て迷惑する事有けり。此龍今の人をみて申けるは。
03 我今水にはなれてせんかたなし。哀みをたれ給ひ。其馬に
04 乗て水有所へ付させ給はゞ。其返報として。金銭を奉らんと
05 云。彼人誠と心得て。馬に乗て水上へをくる。そこにてやく
06 そくの金銭を。くれよといへば。龍いかつて云。何の金銭をか参ら
07 すべき。我を馬にくゝり付て。いため給ふだに有に。金銭とゝは
08 何事ぞとあらそふ処に。狐はせ来て。扨もたつ殿は何ごと
09 を諍ぞと云に。龍右の[赴]なん云ければ。狐申けるは。我此
10 公事を決すべし。先にくゝり付たる様は。何とかしつるぞと
11 云に。たつ申けるは。かくのごとしとて又馬に乗程に。狐。人に申
12 けるは。いか程かしめ付らる{る}ぞと云程に。是程とてしめければ。
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