万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 狐尓申。様。其魚少あ多へよ。ゑじきに奈してんと云介れ八゛。狐
02 申遣る八。あ奈恐多。我王けを奉るへきや。籠を一川持来ら
03 せ給へ。魚越取天参らせんと云ふ。狼爰可しこと可け廻て。可ごを
04 取天来利遣る。狐教遣るやう八此可ごを尾尓付天。川乃真
05 中を於よ可゛せ給へ。跡よ利魚を追い連んと云。狼可ごをくゝ里付
06 て。川を下尓於よぎ遣類。狐跡よ利石を取入遣れ八゛。次第尓
07 重て一足もひ可れ春゛。狐尓申遣る八。魚能入多る可殊外重
08 成天一足もひ可れ春゛登云。狐申遣る八。さん候殊外尓魚農
09 入天見衣候程尓。我力丹天八引上可゛多く候へ者゛。遣多゛もの越雇
10 てこそ参らめとて。く可゛尓あ可゛利ぬ。狐あ多利能人々に申侍る
11 盤。彼あ多利能羊をくらひ多る狼こそ。只今川中丹天魚
12 をぬ春三候と申遣れ八゛。我先にと者し里出。散々尓打擲し
【伊曽保下 〇九】
13 遣る。そ者゛よ利そ古川者出天。刀をぬい天是を切尓何と可
14 志多利遣ん。尾を切天其身八山へぞ尓げ入遣る。於り志毛志ゝ
15 王。違例能事有遣れ八。御気色大事尓見衣させ給ふ。我
16 此程諸国を廻て承及候ひぬ。狐能生皮を御者多゛へ尓付させ
17 給八ゞ。や可゛て御平癒有べしと申。狐此事を伝聞て。尓くい
18 狼可゛訴訟可奈と思ひ奈可゛ら。召尓応じて志ゝ王能御前[農]
19 い川八利ごとに。をの連可゛身をとろ尓まろびて出来多利。志ゝ
20 王此由を見るよ利毛。近ふ参連申べき子細有。近き程。
21 汝を一能人共。定むべき奈登゛めで多ふ申遣れ八゛。狐察して答
22 遣る八。余あ者てさ八ひ天゛参介るとて。まろび候程に。以外尓
23 装束能遣可゛ら八しく候。還て御違例のさ八利共成奈んやと
24 云天重天申遣る八。我此程人尓習候。可様能御違例尓八尾
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 狐に申。様。其魚少あたへよ。ゑじきになしてんと云ければ。狐
02 申けるは。あな恐多。我わけを奉るへきや。籠を一つ持来ら
03 せ給へ。魚を取て参らせんと云ふ。狼爰かしことかけ廻て。かごを
04 取て来りける。狐教けるやうは此かごを尾に付て。川の真
05 中をおよがせ給へ。跡より魚を追いれんと云。狼かごをくゝり付
06 て。川を下におよぎける。狐跡より石を取入ければ。次第に
07 重て一足もひかれず。狐に申けるは。魚の入たるか殊外重
08 成て一足もひかれずと云。狐申けるは。さん候殊外に魚の
09 入て見え候程に。我力にては引上がたく候へば。けだものを雇
10 てこそ参らめとて。くがにあがりぬ。狐あたりの人々に申侍る
11 は。彼あたりの羊をくらひたる狼こそ。只今川中にて魚
12 をぬすみ候と申ければ。我先にとはしり出。散々に打擲し
【伊曽保下 〇九】
13 ける。そばよりそこつ者出て。刀をぬいて是を切に何とか
14 したりけん。尾を切て其身は山へぞにげ入ける。おりしもしゝ
15 王。違例の事有けれは。御気色大事に見えさせ給ふ。我
16 此程諸国を廻て承及候ひぬ。狐の生皮を御はだへに付させ
17 給はゞ。やがて御平癒有べしと申。狐此事を伝聞て。にくい
18 狼が訴訟かなと思ひながら。召に応じてしゝ王の御前[の]
19 いつはりごとに。をのれが身をとろににまろびて出来たり。しゝ
20 王此由を見るよりも。近ふ参れ申べき子細有。近き程。
21 汝を一の人共。定むべきなどめでたふ申ければ。狐察して答
22 けるは。余あはてさはひで参けるとて。まろび候程に。以外に
23 装束のけがらはしく候。還て御違例のさはり共成なんやと
24 云て重て申けるは。我此程人に習候。か様の御違例には尾
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