万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 可゛ら御目可け多しと申。安事と云程尓。片足をも多げて是
02 を見給へと云遣れ八゛。狼打あをのひ天見ける所を。岸よ利下
03 尓ふ三おとし。我子越つ連天帰遣利。狼是を八゛事共せ須゛。多ゞ
04 今こそ志遣る共。又こそと思ひ。可しこに可け廻程に。野辺耳
05 野牛二疋居多利。狼是を三て是こそと思ひ。野牛尓向て申
06 遣る八。汝可゛内。一疋我ゑじきに春べしと申遣れ八゛。野牛謹で
07 と毛可くも丹天侍る也。爰尓申べき子細有。久敷諍事の
08 侍連八゛。御さい者゛んを以天後。何と毛者可ら八せ給へ可しと申遣
09 連八゛。狼何事ぞ登問。野牛答云。此野をふ多利諍候。但給ふ
10 遍゛き人奈きに依天。勝負を付可゛多く候。然ら春゛八。我ら尓疋
11 向よ利。御そ八゛へ者し里来利候べし。疾者し里付多らん者
12 尓。其理越付させ給へと云。とく/\と申遣れ八゛。野牛向よ利
【伊曽保下 〇十 一 二】
13 左右尓者し里可ゝ里。角丹天狼能。ふ登八゛らを可き切天。
14 其身八山尓ぞ入尓ける。狼疵越蒙天。古は仕合王ろ幾
15 事可奈と。者奈いき奈らしてそこ越過ぬ。又川の辺尓ぶ多。
16 親子あそび居遣る所を是こそと思ひ。ぶ多尓向天申遣
17 累八。汝可゛子をゑじき登春べし心得よ登申遣れ八゛。ぶ多心え
18 て云。と毛可うも御者可らひ尓ま可せ侍るべし。但我子盤未
19 幼少尓候へ八゛。可いえんをさづけ春゛候。見申せ八゛御出家の御身也
20 御血縁尓。可いをさづけ給へ可しと望遣れ八゛。保めあげられ天。
21 さら八とて。橋能上尓の保゛利天。爰尓来れと申遣るを。婦゛
22 多。我子越つ連天行程尓。徒登よ利天橋よ利下へ徒き
23 おとし。我身八家尓ぞ帰介る[様]。うきぬ志川゛三ぬ奈可゛連天。
24 やう/\と者いあ可゛利。あらゆめ三あしやとぞいひ遣類
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 がら御目かけたしと申。安事と云程に。片足をもたげて是
02 を見給へと云ければ。狼打あをのひて見ける所を。岸より下
03 にふみおとし。我子をつれて帰けり。狼是をば事共せず。たゞ
04 今こそしける共。又こそと思ひ。かしこにかけ廻程に。野辺に
05 野牛二疋居たり。狼是をみて是こそと思ひ。野牛に向て申
06 けるは。汝が内。一疋我ゑじきにすべしと申ければ。野牛謹で
07 ともかくもにて侍る也。爰に申べき子細有。久敷諍事の
08 侍れば。御さいばんを以て後。何ともはからはせ給へかしと申け
09 れば。狼何事ぞと問。野牛答云。此野をふたり諍候。但給ふ
10 べき人なきに依て。勝負を付がたく候。然らずは。我らに疋
11 向より。御そばへはしり来り候べし。疾はしり付たらん者
12 に。其理を付させ給へと云。とく/\と申ければ。野牛向より
【伊曽保下 〇十 一 二】
13 左右にはしりかゝり。角にて狼の。ふとばらをかき切て。
14 其身は山にぞ入にける。狼疵を蒙て。こは仕合わろき
15 事かなと。はないきならしてそこを過ぬ。又川の辺にぶた。
16 親子あそび居ける所を是こそと思ひ。ぶたに向て申け
17 るは。汝が子をゑじきとすべし心得よと申ければ。ぶた心え
18 て云。ともかうも御はからひにまかせ侍るべし。但我子は未
19 幼少に候へば。かいえんをさづけず候。見申せば御出家の御身也
20 御血縁に。かいをさづけ給へかしと望ければ。ほめあげられて。
21 さらはとて。橋の上にのぼりて。爰に来れと申けるを。ぶ
22 た。我子をつれて行程に。つとよりて橋より下へつき
23 おとし。我身は家にぞ帰ける[様]。うきぬしづみぬながれて。
24 やう/\とはいあがり。あらゆめみあしやとぞいひける
|