万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 承天其名を。者゛け松と付多利。狼申遣る八。其子を我そ八に
02 置天学文させよ。をんあひ能余見多゛利尓王るぐるひさ須奈
03 といへ八゛。狐実もとや思ひ。狼尓預ぬ。狼此者゛け松を徒連て或
04 山能嶽尓あ可゛利。我身八ま登゛ろ三臥多利。遣多゛もの通ら八゛おこせ
05 よ登云付多利。去に依天。ぶ多其辺を通る程尓。者け松狼
06 を於こして是を教。狼申遣る八いさとよ。あ能ぶ多八。け毛多ゞ
07 こ八くして口越そこ奈ふ物也。是を八゛取まじき登云。又牛を野
08 飼尓者奈春程尓。者゛け松教遣れ八゛。狼申遣る八。是も者す
09 と類。犬奈ど云物多取まじと云。又ざうやく能有遣るを教
10 遣れ八゛。是こそとて者し里掛利て。くびをく八へ天我本尓
11 来り。子能者゛け松もと毛尓くいてん遣゛利。其後者け松暇を
12 こひ遣れ者゛。狼申遣る八。未汝八学文も達せ須゛。今暫と
【伊曽保下 〇十七 八】
13 てとゞめ遣れ共い奈とて罷帰。母狐是を三て何とて者やく
14 帰ぞ登云遣れ八゛。学文を八゛能極めてこそ候へ。其手奈三を
15 見せ奉らんとて山野尓出。狐ぶ多を三て。是とれ可しと教
16 遣れ八゛。あ連八。毛多ゝご八くして口能どく也とてとら須゛。牛を
17 教遣れ八゛。者須とる犬奈と云物有とてとら須゛。ざうやくを教
18 遣れ八゛。者゛け松申遣る八。あ奈う連し是こそとて。狼能志多る
19 ごとく尓。首尓飛可ゝ里遣れ八゛。結句馬にくらいころさる。母悲
20 むこと限奈し。其如聊能ことを師匠尓学て。未師匠も免
21 ぬに。達し多ると思ふべ可ら須゛。此狐も年月を経て。狼の志
22 わざを奈ら八ゞ。加ゝ類連うじ奈るわざ八せしとぞ
23 第十一 野牛と於本可三との事
24 或人。あま多能ひ徒じを可い取。其後羊能介いご尓。武き犬を
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 承て其名を。ばけ松と付たり。狼申けるは。其子を我そはに
02 置て学文させよ。をんあひの余みだりにわるぐるひさすな
03 といへば。狐実もとや思ひ。狼に預ぬ。狼此ばけ松をつれて或
04 山の嶽にあがり。我身はまどろみ臥たり。けだもの通らばおこせ
05 よと云付たり。去に依て。ぶた其辺を通る程に。はけ松狼
06 をおこして是を教。狼申けるはいさとよ。あのぶたは。けもたゞ
07 こはくして口をそこなふ物也。是をば取まじきと云。又牛を野
08 飼にはなす程に。ばけ松教ければ。狼申けるは。是もはす
09 とる。犬など云物多取まじと云。又ざうやくの有けるを教
10 ければ。是こそとてはしり掛りて。くびをくはへて我本に
11 来り。子のばけ松もともにくいてんげり。其後はけ松暇を
12 こひければ。狼申けるは。未汝は学文も達せず。今暫と
【伊曽保下 〇十七 八】
13 てとゞめけれ共いなとて罷帰。母狐是をみて何とてはやく
14 帰ぞと云ければ。学文をば能極めてこそ候へ。其手なみを
15 見せ奉らんとて山野に出。狐ぶたをみて。是とれかしと教
16 ければ。あれは。毛たゝごはくして口のどく也とてとらず。牛を
17 教ければ。はすとる犬なと云物有とてとらず。ざうやくを教
18 ければ。ばけ松申けるは。あなうれし是こそとて。狼のしたる
19 ごとくに。首に飛かゝりければ。結句馬にくらいころさる。母悲
20 むこと限なし。其如聊のことを師匠に学て。未師匠も免
21 ぬに。達したると思ふべからず。此狐も年月を経て。狼のし
22 わざをならはゞ。かゝるれうじなるわざはせしとぞ
23 第十一 野牛とおほかみとの事
24 或人。あまたのひつじをかい取。其後羊のけいごに。武き犬を
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