万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 ぞ可いそへ遣る。是尓依天狼少も此羊を於可さ須゛。然尓
02 彼犬俄尓死遣利。者須とるう連へ天云。此犬死て羊定て
03 狼尓とら連奈ん。い可ゞせんと奈げき遣れ八゛。野牛春ゝ三出
04 申遣る八。此事あ奈可゛ち可奈し三給ふべ可ら春゛。其故八我角
05 を落。彼犬能皮をきせ天。羊を介いごさせ給へ。定て狼恐
06 連奈んやと申遣れ八゛。者須とる実もとて其ごとく志遣利。是
07 尓依天狼。犬可登心得天羊能そ八゛に近付こと奈し。然所に
08 狼。以外うへ尓つ可連天。其。死せんこと越可へ利見須゛。徒と寄て
09 羊をく八へ天尓ぐ類所を。野牛追懸多利。狼余尓恐天。い
10 者゛ら能中へ尓げ入遣れ者゛。野牛徒ゞい天追懸多利。何と
11 可志多利遣類。犬能皮をい者゛ら尓引懸天。本能野牛尓
12 ぞ顕連遣る。狼此由を三て。古はふしぎ奈る有様可奈。犬可
【伊曽保下 〇十九】
13 と思へ者゛。野牛丹天あんめるとて。立帰。野牛を召籠何の
14 故尓我を追ぞ登云遣れ八゛。やぎう詞奈ふして。御辺能可け
15 足能法を試多め。多八ふ連天こそとちんじ遣れ八゛。狼い可川て
16 申様。多八ふ連{も}ことにこそよ連い者゛ら能中へ追込天。手足を
17 可やう尓そこ奈ふこと。何能多八ふ連ぞや。所詮其返報尓。御
18 辺をくいころし奉るべしと云天保ろ本゛しぬ。其如。き多奈起
19 ものゝ身として。さ可しき人を多ぶら可さんと春ること。蟷螂[虫良]可゛
20 斧を以天龍車尓向可゛ごとし。うつけ多る者八うつ介て通可一芸也
21 第十二 王しと加ら春との事
22 或鷲。餌食能多め尓。羊能子越徒可三取天くらふこと有。烏
23 是を三て。あ奈うらやましい川゛連毛鳥能身として。何可八可様尓
24 せざるべきと。可゛まん於こし我もとて。野牛能有越三て。徒可見
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 ぞかいそへける。是に依て狼少も此羊をおかさず。然に
02 彼犬俄に死けり。はすとるうれへて云。此犬死て羊定て
03 狼にとられなん。いかゞせんとなげきければ。野牛すゝみ出
04 申けるは。此事あながちかなしみ給ふべからず。其故は我角
05 を落。彼犬の皮をきせて。羊をけいごさせ給へ。定て狼恐
06 れなんやと申ければ。はすとる実もとて其ごとくしけり。是
07 に依て狼。犬かと心得て羊のそばに近付ことなし。然所に
08 狼。以外うへにつかれて。其。死せんことをかへりみず。つと寄て
09 羊をくはへてにぐる所を。野牛追懸たり。狼余に恐て。い
10 ばらの中へにげ入ければ。野牛つゞいて追懸たり。何と
11 かしたりける。犬の皮をいばらに引懸て。本の野牛に
12 ぞ顕れける。狼此由をみて。こはふしぎなる有様かな。犬か
【伊曽保下 〇十 九】
13 と思へば。野牛にてあんめるとて。立帰。野牛を召籠何の
14 故に我を追ぞと云ければ。やぎう詞なふして。御辺のかけ
15 足の法を試ため。たはふれてこそとちんじければ。狼いかつて
16 申様。たはふれ{も}ことにこそよれいばらの中へ追込て。手足を
17 かやうにそこなふこと。何のたはふれぞや。所詮其返報に。御
18 辺をくいころし奉るべしと云てほろぼしぬ。其如。きたなき
19 ものゝ身として。さかしき人をたぶらかさんとすること。蟷螂[虫良]が
20 斧を以て龍車に向がごとし。うつけたる者はうつけて通か一芸也
21 第十二 わしとからすとの事
22 或鷲。餌食のために。羊の子をつかみと取てくらふこと有。烏
23 是をみて。あなうらやましいづれも鳥の身として。何かはか様に
24 せざるべきと。がまんおこし我もとて。野牛の有をみて。つかみ
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