万治版 伊曽保物語 変体仮名
01 第五 学匠ふしん能事
02 さる程尓。祢多奈越帝王。国中能道俗学者を召よせ。汝等可゛
03 心におゐ天不審あら八゛。此いそ本尓尋よ登の多まへ八゛。ある人
04 春ゝ三出天申遣る八。或可゛らん能中尓柱一本有。其柱乃上
05 尓十二能里有。其里能む奈ぎ三十有。彼一川の柱をぞうやく
06 二疋上り下る事如何。いそ本答云い登や春き事尓て候。我
07 等可゛国に八。おさ奈き者迄毛是を知事尓候。故い可んと奈れ者゛。
08 大可らんと八此界能事奈り。一本能柱と八。一年能こと也。十二能里
09 と八。十二ヶ月能こと也。三十能む奈ぎと八。丗日能こと也。二疋能ぞう
10 やくと八。日夜能こと也と申遣れ八゛。重天い奈と云事奈し。或時
11 帝を初奉り。月卿雲客袖を徒らね。殿上に並居給ふ中
12 尓おゐ天。御門仰遣る八。天地開しより以来。見毛せ春゛。聞
【伊曽保中 〇十】
13 もせぬ物八い可んとの多まへ八゛。いそ本申遣る八。い可様丹毛。明日
14 御返事申べ遣れとて御前を万可り立。扨其日尓のぞんでいそ
15 本参内申遣れ八゛。人々是をき可んとてさし徒どひ給へり。其時
16 いそ本懐より小文一川取出し。遣ふよ利我国へ罷帰とて奉り遣
17 連八゛。帝ひらきて叡覧有に。それ里くう累春といふ。介れしや
18 能帝王よ利。三十万貫を可り候処実正明白也と有介れ八。帝
19 大きに驚可せ給ひ。此事を知春゛。汝等八知やと仰介れ八゛。各口越
20 揃て見多ること毛聞奉ることも奈しと申遣れ八゛。其時いそ本
21 云介る八。扨八昨日の御不審八開て候と申遣れ八゛。人々実もとぞ云ける
22 第六 さふらひ。鵜鷹尓春く事
23 さる程尓。えし徒との国能侍共。鵜鷹逍遥をこのむこと者
24 奈者多゛し。国王是をいさめ給へ共。勅命をもおそれ須゛是耳
| 万治版 伊曽保物語 現字体仮名
01 第五 学匠ふしんの事
02 さる程に。ねたなを帝王。国中の道俗学者を召よせ。汝等が
03 心におゐて不審あらば。此いそほに尋よとのたまへば。ある人
04 すゝみ出て申けるは。或がらんの中に柱一本有。其柱の上
05 に十二の里有。其里のむなぎ三十有。彼一つの柱をぞうやく
06 二疋上り下る事如何。いそほ答云いとやすき事にて候。我
07 等が国には。おさなき者迄も是を知事に候。故いかんとなれば。
08 大からんとは此界の事なり。一本の柱とは。一年のこと也。十二の里
09 とは。十二ヶ月のこと也。三十のむなぎとは。丗日のこと也。二疋のぞう
10 やくとは。日夜のこと也と申ければ。重ていなと云事なし。或時
11 帝を初奉り。月卿雲客袖をつらね。殿上に並居給ふ中
12 におゐて。御門仰けるは。天地開しより以来。見もせず。聞
【伊曽保中 〇十】
13 もせぬ物はいかんとのたまへば。いそほ申けるは。いか様にも。明日
14 御返事申べけれとて御前をまかり立。扨其日にのぞんでいそ
15 ほ参内申ければ。人々是をきかんとてさしつどひ給へり。其時
16 いそほ懐より小文一つ取出し。けふより我国へ罷帰とて奉りけ
17 れば。帝ひらきて叡覧有に。それりくうるすといふ。けれしや
18 の帝王より。三十万貫をかり候処実正明白也と有けれは。帝
19 大きに驚かせ給ひ。此事を知ず。汝等は知やと仰ければ。各口を
20 揃て見たることも聞奉ることもなしと申ければ。其時いそほ
21 云けるは。扨は昨日の御不審は開て候と申ければ。人々実もとぞ云ける
22 第六 さふらひ。鵜鷹にすく事
23 さる程に。えしつとの国の侍共。鵜鷹逍遥をこのむことは
24 なはだし。国王是をいさめ給へ共。勅命をもおそれず是に
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